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ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス 1888年制作 テート・ギャラリー所蔵
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鬱蒼と草木が生い茂った森の中に流れる川の岸に一艘の黒い小船が浮かんでいます。 その小船は暗く重々しく、舳先の手前には磔にされたイエスの像と三本の蝋燭が飾られています。 その船の上に、悲痛な面持ちをした一人の女性が乗っています。 女性は真っ白な衣を纏い、小船を岸につないでる鎖を右手に掴みながら、美しい刺繍が施された厚みのある布地の上に腰を下ろしています。 まるで葬送のようです。いえ、実は実際にそうなのです。 船の上にいるこの女性は「シャロットの女」と呼ばれる女性で、彼女はいままさに死の世界へと旅立とうとしているのです。 「シャロットの女」とは、イギリスの詩人アルフレッド・テニスンがアーサー王物語を基にして書いた詩に登場する悲劇の女性です。 この名もなき「シャロットの女」は呪いをかけられ、塔に幽閉されていた悲しい姫でした。 彼女は呪いをかけられているため塔の外に出ることができず、日夜鏡に映った外の世界を見ながら機織をする日々を送っていました。 ある日、彼女はその鏡の中に一人の青年の姿を見つけます。 彼女はその青年の美しさに一瞬にして虜になり、彼の姿を見ようと呪いがふりかかることも忘れて外の世界に飛び出してしまいます。 彼女が塔を出た瞬間、世界は一瞬にして暗転し、彼女に呪いがふりかかりました。その呪いとはすなわち「死」です。 呪われてしまった彼女は波に漂う小船を見つけ、それに乗り込みます。 そして舳先に「シャロットの姫君」と書き、鎖を外し自ら死出の旅に向かうのです。 画面はその場面を描いたものです。 この後、彼女を乗せた小船は、暗夜の川を下っていき、彼女はその中で息絶えます。 彼女の遺骸を乗せた船は彼女が鏡の中で見た男性のいるキャメロットにまで辿り着きました。 「シャロットの女」は一目で恋に落ちた男性を死して追い求めたのです。 この彼女が見初めた男性というのは、実はアーサー王の片腕であるランスロットなのでした。 物語上のランスロットは円卓の騎士の長であり、武芸に秀で、騎士道精神にのっとった騎士の中の騎士とされています。 その人気はアーサー王をも凌ぎ、騎士の象徴としてトランプのJのモデルにもなっています。 その彼を見てしまったのが「シャロットの女」の不幸の始まりでした。 画面からは彼女の悲痛な心の叫びが聞こえてきそうではありませんか。 また彼女が小船の中で歌った悲哀に充ちた歌声も聞こえてくるようです。 とても悲しい絵なのですが、何故か彼女は美しく魅力的に見え、画面から目を離すことができません。 それは悲劇に見舞われた傷心の女性の姿が何にもまして美しいものだからなのでしょう。 悲しい運命を背負った女性の最後の瞬間、その死にまみえる直前の生の一瞬の美をウォターハウスは見事に画面に描き出したのです。
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