「聖エウラリア」

ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス

1885年制作 テート・ギャラリー所

 

 

 

しんしんと雪が降り積もる道の上に、一人の女性が仰向けになって倒れています。

女性は乳房をあらわにした上半身裸の姿で、すでに事切れています。

彼女の足もとには鳩が何羽も屯っており、その先には二人の兵士と幾人かの見物人が見えます。

一体何が起こったのでしょうか。

そしてこの女性は何者なのでしょうか――?

女性の名はエウラリア。

4世紀初頭のスペインの処女殉教者です。

彼女はキリスト教が禁圧されていたローマ政権の時代に、ローマの神々への崇拝を拒否しました。

そのため、服をはぎ取られ、火炙りの刑に処せられてしまいます。

そして燃えた髪の煙を吸って、窒息死してしまいました。

そのかくも凄惨な出来事を描いたのが、この画です。

悲惨な状況である場面なのに画面は静けさに満ち、五体を地に投げ出しているエウラリアからは神々しさが感じられます。

本作品はこう評されました。

「この画家の着想は力と独創性に満ちあふれている。

彼の全力量は横たわる人物の哀愁を誘う気高さに集中し、その無力さと純粋な静けさは見事な美しさを湛えている」

伝説によると、処刑の際、エウラリアの口から3羽の白い鳩が飛び立ったそうです。

その内の1羽が見物人の一人である少年が指差す空に舞っています。

そして更に雪が降り始め、広場に横たえられた亡骸が白く覆われたと言われています。

この画はその奇跡の場面でもあるのです。

 

イシス、アポロ、ウェヌスは無なり。

皇帝マクシミアヌス自身も無なり。

それらは無なり、手もて作られし紛い物ゆえ。

皇帝は無なり、手もて作られし紛い物を崇めおりしゆえ。

  


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