「つれなき美女」

ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス

1893年制作 ヘッセン州立美術館所

 

 

 

ジョン・キーツは、19世紀前半に活躍したイギリス・ロマン派後期の詩人です。

ウォーターハウスは、彼の詩から多くのインスピレーションを与えられました。

本作品「つれなき美女」もそのうちの1作です。

この詩は、頑健な騎士が奥深い森の中で一人の妖の美女に出会い、虜になってしまうというストーリーです。

画面は騎士がまさに美女に囚われてしまっている場面が描かれています。

二人は鬱蒼と生い茂る森林の中で、今にも口づけするかのような雰囲気を漂わせています。

しかし恐ろしいことに美女――妖魔は、自身の髪を一房掴み取って、騎士の首にロープのように巻きつけています。

少し力を加えれば、騎士の首を締めあげられるほどです。

騎士は気づいているのかどうか…。

彼の視線は、美女の顔容にのみ注がれています…。

 

 

鎧の騎士よ どうしたのだ たったひとり 蒼い顔して さまよって

菅も湖畔にさびれ果て 一羽の鳥も歌わない

 

鎧の騎士よ どうしたのだ 衰えやつれ 悲しい顔して痛ましい

栗鼠の穀倉は満ちあふれ 収穫の時はもう終り

 

あなたの額に百合がある 苦しみに濡れ 熱に侵され玉の汗

あなたの頬のばらが衰え たちまち色があせていく

 

牧場で俺が出会った女 凄い美人だ 妖精の子 気品があって

髪は長く 足取りも軽く 瞳は野生にあふれていて――

 

花で冠を作ってやったのだ ブレスレットも すてきな香りの帯飾りも

女は俺をじっと見た 愛を感じて 声を出す――

 

俺は美女を馬に乗せ ひねもす 見ていた 美しい身体

俺のそばで身をかがめ 歌い続けた妖精の歌

 

女は甘い草の根を 俺のため 野の密 甘い露を とってきた

きいたこともない言葉で あなたが好きって言ったのだ

 

女は俺を小鬼の洞に導き泣き声をあげ ためいきを吐いたさ

そこで俺は野生の瞳をそっと閉じさせ 四回もキスをしてやった

 

こんどは女がおれに子守唄だ 俺は夢見た――わざわいの ああ恐ろしい

いまみたばかりの新しい夢 冷たい近辺の景色の中に

 

蒼ざめた王や王子たちがいて 蒼ざめた騎士もいて 死人のような顔の色

口を揃えて 「つれなき美女の おまえも虜になった」 という

 

渇えた唇が 薄闇の中で 恐ろしい警告のために 大きく開かれていた

俺は目が覚めたのだ この 冷たい近辺の景色の中に

 

いまここにさまよい歩き ひとり蒼ざめ 歩くのはこのためなのだ

菅も湖畔にさびれ果て 一羽の鳥も歌わないのも 

 


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