「ヒュラスと水の精」

ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス

1896年制作 マンチェスター市立美術館所

 

 

  

この凄まじくも美しい光景をご覧ください。

七人のニンフたちが一人の男性を水の中に引きずりこもうとしています。

この青い衣をまとった男性の名は”ヒュラス”。

ギリシャ神話に登場する絶世の美少年です。

彼は英雄ヘラクレスの愛人でした。

ヒュラスは森の奥へ水を汲みにいき、そこでニンフたちにとらわれて、彼女たちの棲む水面下の世界へ連れて行かれてしまいます。

類まれな美貌をもったがための悲劇です。

ウォーターハウスはその場面を見事に描き出しました。

水面下より出現したニンフらは、水面に浮かぶ蓮の葉をからませながらその美しい肢体を見せて、彼を誘惑します。

ヒュラスが肢体を屈めて水をくもうとしたところを、中心にいるニンフがその腕をからめとり、その左にいるニンフが衣をわし?みにし、

そして右にいるニンフが何かを手にして彼にそれを見せています。

彼女らは白い肌と亜麻色の長い髪をしていて、みな妖しく美しく魔的です。

魅惑的なまなざしを向けて、彼を惑わせてはいるものの、その表情はどことなく無機的です。

それは彼女たちが人間ではないからなのでしょうか。この幻惑的な絵画は一瞬にして見る人の心を奪います。

この妖美なる世界にわれわれは既にひきずりこまれてしまっているのかもしれませんね。


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