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「アリアドネ」 ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス 1898年制作 個人蔵
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鮮やかな緋色の衣を纏って、身体を横たえてしどけなく眠っている一人の美貌の女性がいます。 女性は片方の乳房を露わにし、ゆったりとくつろいだ表情で眠っており、少しの警戒心も持ち合わせていません。 女性の足元には、まるで彼女の眠りを妨げる者から守るようにして、二頭の山猫が身体を添わせています。 遠景――眠る美女の塀の向こうには海が広がっており、そこには桟橋と帆を広げた船が見えます。 実に穏やかな光景が画面に広がっています。 ですが、実はこの情景はかくも凄惨な物語の場面を描いているのです。 眠っている佳人の名はアリアドネ。 ギリシャ神話に登場する人物の一人です。 「ミノタウロスの迷宮」「アリアドネの糸」のエピソードで有名な女性ですね。 彼女は、自分の母親が牛と密通して生まれた怪物ミノタウロスを退治しにやってきたテセウスに恋をします。 そして彼女は自分の父親を裏切り、自分の異父兄弟でもあるミノタウロス殺しに手を貸しました。 その後、彼女はテセウスとともに、生まれ育った地を離れ、と、ある島に辿り着きます。 しかしテセウスは心変わりをし、なんとその島に彼女を置き去りにしてしまうのです。 しかも彼女の眠っている隙を狙って…。 画面に描かれているのは、まさにその裏切りの場面です。 自分の家族を捨てて尽くした愛する男性の裏切りに少しも気付かず、ぐっすりと眠るアリアドネ――。 その背景には、今、まさに彼女を残して去っていくテセウスの乗った船が描かれています。 これほどの悲劇があるでしょうか。 目を覚まし、テセウスの裏切りに気付いたアリアドネの悲嘆がいかほどか、想像にかたくありません。 しかし天は彼女を見放しませんでした。 この後、アリアドネは、オリンポス神であるディオニソスに見初められ、その彼の妻となるのです。
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