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「牛乳を注ぐ女」 ヨハネス・フェルメール 1658-60年制作 アムステルダム国立博物館所蔵
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トポポポポポ…。 小気味良く心地よい音がキャンバスの中から聞こえてきます。 画面の中で一人の女性が土鍋に牛乳を注いでいるのです。 場所はおそらく台所でしょう。 女性の他には誰もいません。 土鍋の置いてある青いクロスがかかったテーブルの上には、大きくて固そうなパンがあります。 女性はこれからそのパンを土鍋の中に入れて煮るのです。 17世紀オランダの日常風景です。 本作品は、フェルメールがまだ20代後半の時に描かれました。 初期作品であるのにも関わらず、この作品は当時から「傑出した出来栄え」と称賛されていました。 そしてあの名作「真珠の耳飾りの少女」に次いで、いつの時代でも人気作品でありました。 女性の背景の壁や床は薄汚れており、お世辞にも美しいとは言えません。 また女性自身も美貌とは言い難く、女性らしさとは程遠いがっしりした体つきをしています。 それなのに画面は静謐な空気が広がり、気品さが溢れ出て、魅力的で目が離せません。 それはどうしてでしょうか。 まず技術の点から見てみますと、女性の纏っている衣服に答えがあります。 女性は頭には、頭髪が一筋も見えないように白い頭巾をかぶっています。 そして黄色い上衣と青い下衣を着ています。 隙のない、無駄のない、清潔なスタイルです。 ”清貧”という言葉が頭に浮かんできます。 何より素晴らしいのは、下衣の青い色彩です。 これはフェルメールの愛したラピスラズリの青い絵の具が使用されています。 この青い絵の具は、純金と同じ価値のある高価なもので、通常の絵具の100倍の価格でした。 またその青い色彩は上衣の黄色と絶妙なコントラストとなっています。 そして表現の点からみますと、青は古来より聖なる色でした。 聖母マリアの衣装を描くときになど用いられた気高い色なのです。 それをフェルメールは庶民の生活を描くのに使用したのです。 そして女性の眼差し――彼女の視線は注いでいる牛乳に集中しています。 温かい眼差し――表情です。 まるで聖母マリアが、幼子イエスに向ける慈愛の眼差しのようです。 この女性――オランダ市民にとっては台所は聖なる場所であったのでしょう。 そう、ここはすべてが始まる神聖な場なのです。 この絵は、オランダ黄金時代が生んだ「聖母像」と別名がつけられています。
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