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「詩人に霊感をさずけるミューズ」 アンリ・ルソー 1909年制作 バーゼル美術館所蔵
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画面には森の中で佇む一組の男女が描かれています。 男性はギョーム・アポリネール、19世紀後半から20世紀初頭にかけて活躍した詩人です。 その彼に寄添っている女性はマリー・ローランサン、やはり彼と同時期に名を馳せた女流画家です。 アポリネールはタキシードのような黒い衣服を着て、右手には羽根ペン、左手には筒のように丸めた紙を持っています。 いかにも詩人らしくありますね。 一方、ローランサンはゆったりとした青灰色のドレスをまとい、頭には植物の冠を身につけています。 一見すると、二人の結婚式のようにも見えますが、それは違います。 ローランサンは、今、女神に扮して、アポリネールに詩のインスピレーションを与えているのです。 ローランサンは絵の才覚を持ち合わせているだけでなく、美貌にも恵まれていました。 そのため、多くの芸術家たちに芸術のインスピレーションを与えるミューズとして崇められていました。 アポリネールもそのうちの一人です。 アンリ・ルソーはそんな二人の肖像画を描きましたが、結果はあまり似ていませんでした。 アポリネールは顔の寸法を細かく丁寧に計って描いたのにも関わらずにです。 ローランサンの方は、言うまでもなく、かなり太めに描かれています。 彼女は当然不満を口にしました。 女性なら怒って当然ですよね。 しかしルソーは、女神とはこんなものさ、とすましたそうです。 二人の手前に描かれているのは、赤と白のカーネーションで、画面を華やかに見せています。 カーネーションは”詩人の花”ともいわれており、この絵にぴったりの花です。 仲睦まじ気に見えるアポリネールとローランサン、二人は恋人同士でもありました。 しかし、後に破局が訪れます。 二人の愛と別れを綴った、アポリネールの詩「ミラボー橋」は有名です。
ミラボー橋のしたセーヌは流れ そしてわたしたちの恋も流れる せめて思い出そうか 悩みのあとには喜びが来ると
夜は来い鐘は鳴れ 日は過ぎ去ってわたしは残る
手と手をとり向きあって こうしていると わたしたちの腕の橋のした 永遠の眼差しのあんなにも疲れた波が通って行く
夜は来い鐘も鳴れ 日は過ぎ去ってわたしは残る
恋は過ぎ去るこの流れる水のように 恋は過ぎ去る 何と人生の歩みはおそく 何と希望のはげしいことか
夜は来い鐘は鳴れ 日は過ぎ去ってわたしは残る
日が経ちいくつもの週もまた 過ぎた時も 恋ももうもどって来ない ミラボー橋のしたセーヌは流れ
夜は来い鐘は鳴れ 日は過ぎ去ってわたしは残る
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