「私自身、風景=自画像

アンリ・ルソー

1890年制作 プラハ国立美術館所蔵

 

 

 

 

彼は左手にパレットを持ち、右手に絵筆を持っています。

そして黒いスーツを纏い、黒い靴をはいています。

この男性は一体誰なのでしょうか――?

実は彼はこの画の作者であるアンリ・ルソーその人なのです。

ルソーの背後には万国旗で飾られた黒船とエッフェル塔が建っており、また空には気球が浮かんでいます。

とても明るく賑やかな景色ですね。

彼がこの作品を描いたのは46歳のときでした。

その前年、パリの万国博覧会が催され、ルソーはこれに夢中になったそうです。

本作品のタイトルは「私自身、風景=自画像」とありますが、通常、自画像は自分の姿だけを描く図です。

この風景をも描写した自画像は大変珍しい自画像でしょう。

本作品は「自画像」というよりは、彼自身そのものなのです。

よく見ると、パレットには何か文字が書いてあります。

それは「クレマンス」と「ジョゼフィーヌ」という文字です。

「クレマンス」は最初の彼の妻であり、「ジョゼフィーヌ」は二番目の彼の妻の名前です。

実際にジョゼフィーヌと結婚したのはこの作品を描いたずっと後のことです。

彼は後からこの名前を描き加えたのです。

後からか描き加えたものにもう一つ、左胸上方の箇所につけてある勲章があります。

ごくささやかな勲章でしたが、ルソーにとってはかけがえのない大切なものでした。

自分の好きな背景に屹立しているルソー。そして手にはパレットと絵筆。

彼は自分の内面世界のすべてを、たった一枚のキャンバスに描き切ったのです。

 

 


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