「飢えたライオン

アンリ・ルソー

1905年制作 バーゼル美術館所蔵

 

 

 

 

画面中央で、恐ろしい場面が繰り広げられています。

ライオンが爪と牙を剥き出しにして、カモシカに喰らいついているのです。

いまやカモシカはライオンにしっかりと押さえられ、もはや逃げることが不可能な状態になっています。

目はまあるく見開かれ、そして涙を浮かべています。

無機的な表情が、恐怖心を伝えます。

捕らえられる前に暴れたのでしょうか。

体のそこかしこに生々しい傷跡があり、そこから血が滴り落ちています。

二匹の周囲では、亜熱帯の草木が鬱蒼と生い茂っています。

よおく目を凝らして見ると、その中に何匹かの動物が隠れ潜んでいるのがわかります。

木の幹のところにはヒョウがいますね。

ヒョウはライオンが捕らえたカモシカを脇から奪い取るつもりで、いまかいまかと身構えています。

梟もいます。梟は木の枝に止まっており、嘴に何を加えています。

また熱帯に住まう鳥もいます。やはりこの鳥も嘴に何かを加えています。

それらは血のような赤色をしています。

いいえ、実際に、それは血なのです。

そうです。鳥たちが咥えているのは、動物の肉片なのです。

ジャングルの――生命の輪の縮図がここにあります。

アンリ・ルソーは本作以外にも、このような亜熱帯のジャングルの情景をたくさん描きました。

しかし、画家本人は南国に行ったことは一度もありません。

それにも関わらず、この写実描写の見事さはどうでしょうか。

ルソーはいろんな国の風景の絵が描かれた本をたくさん持っていました。

彼はそこからイマジネーションを呼び起こして、作品を描いていたのです。

ルソーの才は奇抜な着想力ではなく、その卓越した想像力にあったのかもしれません。

 

下記は本作の原題です。

「飢えたライオンはカモシカにとびかかり、むさぼり食う。ヒョウは分け前にあずかるときを心配そうに待っている。

鳥たちは肉片を切りきざんでいるところ。そしてあわれな動物は涙を流している!太陽が沈む!」

 

 


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