「マリアナ」

ジョン・エヴァレット・ミレイ

1850-51年制作 テート・ギャラリー所蔵

 

 

 

ミレイはその生涯において絶え間なく画風を進化させていった画家でした。

その彼のラファエル前派時代に描かれた代表作品「オフェーリア」と並んで知られるのが、本作品「マリアナ」です。

「マリアナ」が世間に発表されると、大絶賛され、下記のように評価されました。

 

これは絵画による詩である。

この作品の効果は他の数多の絵画をあらわすそれとはまったく逆である。

多くの絵画において情熱的な概念は、平凡な紋切り型の現実性に還元されてしまうからだ。

 

「マリアナ」は、シェイクスピアの作品「尺には尺を」から引用して詠んだ詩に基づいて描かれました。

「マリアナ」とはその作品のヒロインの名前です。

マリアナには、アンジェロという名の婚約者がいました。

しかしマリアナは事故により、結婚の持参金を失ったため、アンジェロに捨てられてしまいます。

そのため堀で囲まれた館で孤独な生活を送ることを余儀なくされました。

画面に描かれているのは、タイトル通りまさしく孤独な悲劇のヒロイン――マリアナその人です。

椅子に座って刺繍をしており、疲れたのでしょうか。

立ち上がって腰に手を当て、身体を大きく伸ばしています。

気だるさの伴ったポーズで、表情もまた無気力ですが、なぜか官能的で気品も漂っています。

それは彼女の纏っている目にも鮮やかな詩紺色のドレスがそう見せているからでしょう。

橙色の椅子との色のコントラストは素晴らしく美しいことこの上ありません。

一瞬にして目を引き付けられ、そしてそこから離せなくなってしまうほどです。

また彼女のいる部屋の装飾性も完璧です。

真向かいにある受胎告知のステンドグラス、窓から見える初冬の景色、製作途中の繊細で色彩豊かな刺繍、

金地が降り込められた豪奢な壁、背後にある灯りがともったランプとその下にある銀の燭台、

そして机や床に散りばめられた葉…。

悲しみに満ち溢れた女性を演出する見事な構図です。

マリアナの感情――精神世界が一枚のキャンパスにおさめられた名画中の名画です。

 

彼女はただ、「私の人生は侘しい、あの人は来ないもの」と言った。

彼女は言った、「淋しくて淋しくてしようがない――もういっそ死んでしまいたい!」

 

 


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