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「エステル」 ジョン・エヴァレット・ミレイ 1863-65年制作 個人蔵
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「エステル」は旧約聖書の「エステル記」に登場するユダヤ人女性です。 彼女はこの物語の主人公で、ペルシア王の妃でした。 ミレイはこのエステルをスーザン・アン・マッケンジーをモデルにして描きました。 当初、ミレイはスーザンをエステルとして描くつもりはありませんでした。 彼は新約聖書に登場するベタニヤ村のマリアを描く予定だったのです。 しかし聡明で才能豊かなスーザンは、主人に仕える従順な女性よりも、毅然とした女王のイメージが強かったのです。 彼女は鮮やかな黄色の王妃の衣装を纏った「エステル」になりました。 全身を覆っているその衣装の見事な色合いはまさに筆舌しがたくあります。 実はこの衣装は、当時の国民的英雄であったゴードン将軍が、中国政府から贈られた物なのです。 ミレイはこれを将軍から借り受け、スーザンに纏わせました。 彼は見事にその色彩を描きだしましたが、しかし、模様がなんだが雑です。 ミレイでもこの衣装の模様を描き切ることはできなかったのでしょうか。 いいえ、そんなはずはありません。 幼少より、その天賦の才を発揮し、細部にわたる綿密な描写の作品を数多手がけてきたミレイです。 実はここに描かれている衣装は裏返しなのです。 ミレイは抽象的な色合いを引き立たせるために、故意に衣装を裏返しにしてスーザンに着せたのです。 天才はやはり発想が違います。 エステル扮するスーザンは、王妃の象徴であるティアラを取り、その長い赤褐色の美しい髪を今まさにほどこうとしています。 その勇ましい表情をご覧ください。 彼女は今まさに意を決して何かをしようとしていることが明白です。 スーザン、いえ、「エステル」は、神殿の向こうにいる自分の夫である王に謁見しようとしているのです。 当時は、王の召喚なしに王に会見することはタヴーとされていました。 それも、死に値する罪でした。 たとえそれが王妃であったとしてもです。 でも何故エステルはそうであったにも関わらず、王に直に会おうとしたのでしょうか。 それは、時の大臣であったハマンが、エステルの父モルデカイをはじめ、ユダヤ人すべての殺害を企んだからです。 エステルは自分の父や同胞を救うため、王に訴え出ることにしたのです。 王冠を取り、髪をふりほどいて王に会おうとしたのは、王妃ではなく一人の人間として訴え出ることの決意の表れでしょう。 毅然とした表情と姿勢から彼女の死をも覚悟した決意が伝わってきます。 本作品は、死をも恐れぬ大胆なふるまい、勇気ある女性の象徴の図とも言えます。 そして同胞を救うための高潔な志も伝わってきます。 果たしてエステルはどうなったでしょうか。 アハシュロス王は彼女の訴えを聞き届け、ユダヤ人虐殺を目論んだハマンを処刑しました。 また、エステルの父モルデカイは高官へと引き上げられたそうです。
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