「ナナ

エドゥアール・マネ

1877年制作 ハンブルク美術館所蔵

 

 

 

 

 

画面中央で一人の女性が背筋をぴんと伸ばして横向きで屹立しています。

女性は、上半身は明るい青色のコルセット、下半身は白のペチコート、脚は刺繍がほどこされた青色のストッキングといういでたちです。

そう、なんと彼女は下着姿なのです。

それにも関らず、彼女は何ら恥ずかしげもなく、顔はこちらに向けながら、堂々とその発育の良い身体を我々に見せつけています。

彼女の立っている前には鏡と二本の蝋燭があります。

そして彼女は左手に白粉をはたくブラシと右手に口紅を持っています。

一目で身支度中ということがわかりますね。

その彼女の背後には、黒いスーツを着た男性が座っています。

何やらイラただし気な様子です。

彼は彼女の遅い身支度が整うのを待っているのです。

しかし彼女は、それを何ら気にもとめないとりすました顔で、視線を観者に向けています。

その顔は非常に愛くるしく、瞳は小鹿のようです。

美しい亜麻色の髪は上方で結わかれ、白いうなじが目をひきます。

豊かな体つきをしていますが、女性がまだ少女と呼ばれる年齢であることが伺えます。

果たしてこの女性は何者なのでしょうか――?

実はこの女性は、19世紀フランスの高名な小説家エミール・ゾラが描いた作品「居酒屋」に登場する人物なのです。

その名もタイトル通り「ナナ」。

マネとゾラは親しい間柄であり、彼はその小説から連想して「ナナ」をキャンバス上に描きだしました。

ですが彼の描いた「ナナ」と実際の小説における彼女とは、大分違っていました。

その指摘についてマネはこう語っています。

「すでに娼婦となった18歳のナナを描いた。

彼女は本質的にパリっ子であり、健康的で肉づきがよく小柄に成長し、ほっそりとした腰つきで優雅でないにしても魅惑的である」

マネはゾラの小説から自分の「ナナ」を創り上げたのです。

マネがこう語っているように、画面の中の「ナナ」は非常に魅力的です。

少女特有の汚れのなさと成熟した大人の女性の色気が混在し、そのアンバランスさに我々は惹きつけられます。

「パリっ子」とマネが語っているように、画の「ナナ」は当時の都会パリを体現しています。

当時のマネは「幸せそうな顔と堕落の苦さを見せつつ暮らしが楽になり始めた」時に、「第三共和制下初期のパリの最も魅力的な

人物群」を描こうとしていました。

それがこの「ナナ」なのです。

我々はこのマネが描いた「ナナ」を通して、当時のパリの様子を伺い知ることができるのです。

  


戻る