「オフィーリア」

アーサー・ヒューズ

1852年制作 マンチェスター市立美術館所蔵

 

 

 

 

画面の中央に水辺のところに生えている木の幹に腰掛けている一人の女性の姿が描かれています。

女性は片腕で野草を抱えながら、もう片方の手でそこからむしりとった花びらを水面に浮かべています。

水面に向かってまっすぐ伸びているその腕が、纏っている衣装よりも白く、目を惹きます。

またその顔も能面のように白く無表情です。

瞳にいたっては視線こそ花びらを落とした水面に向けてはいますが、何も映し出されていないことが明白です。

女性は明らかに絶望しています。

一体彼女に何が起こったのでしょうか?またこの女性は一体誰なのでしょうか?

実は彼女はシェイクスピアの作品「ハムレット」に出てくる登場人物の一人である「オフィーリア」なのです。

「ハムレット」は言わずと知れた世界中に知られる名作です。

自分の父親を殺されたハムレットが、父親を殺害した人物に復讐しようとしたために起こった悲劇の顛末を綴った物語です。

「オフィーリア」はそんな彼の恋人でした。

しかしハムレットは彼女の父親を自分の父親を殺した人物と勘違いをして殺してしまいます。

愛を誓った恋人に裏切られただけでなく、自分の父親まで殺されてしまった彼女は狂気にいたります。

描かれているオフィーリアの表情からその絶望がどれだけのものかが容易にわかります。

この作品はその場面を描いたものです。

それは第4幕第7場。

悲嘆に暮れたオフィーリアが草原が出かけ、自分の髪を飾る花輪を作ろうと、野に咲く草花を集める場面です。

「これがマンネロウ、忘れな草。お願い、あなた、忘れないでね。それから三色スミレ、もの思いの花」

彼女は花を摘みながら、まるで恋人を非難しているみたいに、それぞれの花の名とその花に結びついている象徴的な意味を口ずさみます。

この後、彼女は花輪を枝にかけようとして水面の中に落ち、溺死してしまいます。

実に悲しい話なのですが、何故か彼女は美しくかつ魅惑的に見え、画面から目を離すことができません。

絶望に打ちひしがれた女性の姿というものは、もしかしたらこの世で一番美しいものなのかもしれませんね。

 

小川のほとりに柳の木が斜めに立ち、白い葉裏を流れに映しているところに、オフィーリアがきました、

キンポウゲ、イラクサ、ヒナギク、紫蘭の花などを編み合わせた花冠を手にして・・・

 

あの子がしだれ柳の枝にその花冠をかけようとしてよじ登ったとたんに、つれない枝は、一瞬にして折れ、

あの子は花を抱いたまま泣きさざめく流れにまっさかさま。

 

 


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