「4月の恋」 アーサー・ヒューズ 1855-56年制作 テートギャラリー所蔵 |
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| 画面の中には目の覚めるような鮮やかなブルーのドレスを着た若く美しい女性が佇んでいます。 上衣は薄い半袖で、むき出しになった白い腕が目をひきます。 女性は今、ヒルガオの蔦が繁る薄暗い東屋にいます。 背後の窓からは明るい外の様子が垣間見え、まだ日中であることがわかります。 廃墟のごとく、ヒルガオが生い茂った東屋の中は、日が差し込まず、うっすらと寒さを感じるのでしょう。 女性は、透き通った薄青色のショールを首からかけています。 そして憂い顔で、足元に散っているヒルガオの花びらに視線を注いでいます。 まるで粉々に壊れてしまった自分の中にある大切なものを見るかのごとくに。 この絵は「ヒルガオの繁る庭の東屋で口喧嘩する当代のミドルクラスの若い恋人たち」を主題にして描かれたアーサー・ヒューズの作品です。 タイトルは「4月の恋」。 美しい絵ですが、哀愁感が漂っており、花が咲き乱れる春の時期にはそぐわないような気がします。 心浮かれこそあれ、物思いに沈む季節ではありません。 それについては、美術評論家のジョン・ラスキンが説明しています。 「娘は歓びと苦しみの狭間にあり、だからこそ『むろん』その表情は判然とせず、暗い部分が青空か雨雲か見分けのつかない4月の空のように、揺れ動いているのです」。 そしてジョン・ラスキンは本作を高く評価し、コレクターのヒートンに購入をすすめましたが、彼は女性の表情が気に入らないといって断りました。 感傷的な女性の表情、そして陽光は背後にあり、薄暗い場所に佇みながら、地に散らばった花びらを見つめていることから、この女性の恋の行方が明るいものではないことが暗示されてます。 春の華やかさ爽やかさを演出する軽やかで端麗なドレスを着ながらも、物悲しい表情が対照的で、それが画面を引き締め、物語性を持ち、えもいわれぬ雰囲気のある魅力的な画となっています。 もし女性が喜びに満ちた朗らかな表情で描かれていたら、この絵はありふれた春と恋の到来を喜ぶ女性を描いた絵にしかすぎなかったでしょう。 胸がしめつけられるような切なさを鑑賞者に訴える名作です。 本作品は、1856年にロイヤル・アカデミー・オブ・アーツで展示された際に、アルフレッド・テニスンの詩「粉屋の娘」の一部分が添えられました。 愛すれば心は軋み苛立ち痛むもの 愛に漠とした後悔はつきものか 目は無為の涙に濡れながら 無為の習いによってのみわたしたちは結ばれる 愛とはいったい何でしょう、いずれ忘れてしまうものなのに ああ、いいえ、いいえ |
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