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「死の花嫁」 トマス・クーパー・ゴッチ 1854-95年制作 アルフレッド・イースト・アートギャラリー所蔵
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身の丈ほどもあるヒナゲシの群生の中に一人の女性がいます。 女性は全身に黒衣をまとって、頭には薄桃色のヒナゲシを飾った黒いヴェールを被っています。 一瞬葬列を思わせる絵画ですが、それは違うということが女性の表情からわかります。 彼女は正面を向き嫣然と微笑んでいるからです。悲しみは感じられません。 そして鬱蒼と茂るヒナゲシを掻き分けながら前に進もうとしています。 一体彼女は誰なのでしょうか? 彼女は誰でもない、「死の花嫁」なのです。 彼女は黒衣の花嫁衣裳を纏い、これから生涯の伴侶となる「死」のもとへ行こうとしているのです。 この作品はラファエル前派の巨匠の一人であるトマス・クーパー・ゴッチが描いた作品の一つです。 ゴッチは「深紅と紫のヒナゲシの群のあいだを通っていくヴェールを被った女性」という主題で本作品を描きました。 その主題の通り実に写実的に如才なくそれを描ききっています。 黒色を多様しているため全体的に暗い感じがしますが、それがかえってヒナゲシの深紅色を魅惑的に際立たせています。 美しいだけでなく、幻想的かつ魔的でキャンバスの中にひきずり込まれていきそうになるではありませんか。 それほど魅惑的な作品であるのにも関わらず、この作品は出品された当時は美術界には受け入れられませんでした。 それは当時においては、難解で霊感的な絵画よりも物語的な主題を持った明確な絵画を好む風潮にあったからなのです。 この作品は「より理解しがたいあまり愉快でない響きが感じられ、病的な状態を免れない神秘的な傾向をもった作品」と酷評されました。 ゴッチはその後、当時の風潮に沿った作品を個性的に描いていき、彼自身の名誉を挽回します。 しかしこの作品が再評価されることはありませんでした。 ゴッチは、パリで象徴派やリアリストたちの作品に感銘を受けており、その影響が本作品にも表れています。 しかし彼は「死」という概念を「死」そのものを抽象的かつ象徴的にキャンパスに具現化して描くことはしませんでした。 その伴侶である「花嫁」を描くことで、「死」という概念を観る人が形として捉えられるような想像を喚起させる手法を用いたのです。 黒衣の花嫁の向かう先にいる「死」とは一体どのような姿をしているのでしょうか?
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