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ギリシャ神話に登場するメディアは、その多面的性格と流転する人生が、古今東西多くの画家の創作意欲を刺激し、ファムファタルの一人として題材に取り上げられて絵に描かれてきました。 そのメディアからは、あらゆる形容の女性の語句が脳裏に浮かんできます。 魔女、王女、美女、烈女、猛女、悪女、鬼女、妖女、狂女。 実際メディアはこれらの言葉がすべて当てはまる女性でした。 魔術に長けた王女でありながら、恋に狂って故国を裏切り、愛する男性を勝利へと導いた女神になったと思いきや、一転して復讐の鬼に変貌し、自分の子供を手にかけた毒婦だったのです。 複雑怪奇とも思える性質が有為転変な人生を辿らせたのでしょうか。 メディアはコルキス国の王女でしたが、テッサリア国からやって来た王子イアソンに恋をしてしまいます。 イアソンは王位を継ぐ条件として、叔父のぺリアスからコルキスの宝物の金羊毛を獲ってくることを課せられていました。 イアソンはメディアの力を借りて、金羊毛を奪い取ります。 そのまま二人は船で逃げ去り、様々な地を渡りながら、最終的にはコリントスに定住します。 しかしその地でメディアはイアソンに裏切られます。 イアソンはなんとコリントス王の娘との結婚の申し出を受けてしまうのです。 怒ったメディアは、その王と娘を殺害します。 そしてイアソンとの間にもうけた二人の子供をも殺し、彼をその地に一人置き去りにして天駆ける竜車に乗って去ります。 様々な諸説はありますが、これが大筋のメディアのエピソードです。 凄まじき女性です。 残忍な行為も幾度もしています。 自分の弟を八つ裂きにして殺したこともあります。 それはイアソンがメディアの力を借りて金羊毛を奪った後、ともにアルゴー船で逃げていたときのことです。 コルキスの王アイエテスは彼らを追いました。 メディアは父でもある王から逃げきるために、捕虜として乗船させていた王の息子(メディアにとっては弟)の体をバラバラに引き裂いて海に放り投げたのです。 アイエテス王が、海に散らばった息子の体を集めている間、メディアたちはまんまと遁走してしまったのです。 画面に描かれているのは、いままさにアプシュルトスが海に投げ込まれようとしている場面です。 画では、アプシュルトスは五体を引き裂かれこそされていないものの、屈強な男たちに体を抱えられ、生きたまま海に投げられようとしています。 彼は、落とされまいと腕を伸ばし、必死にメディアの衣を掴んでいます。 (ドレイパーは凄惨な場面を避けるために神話の内容を変えて本作を描きました) メディアはそれに関せず、海上の先に見える帆を最大に広げた王の船に、猛々しい視線を向けています。 イアソンは、背景に溶け込んで存在感が薄くなっているものの、メディアの背後で勝利の雄叫びをあげるかのように金羊毛を広げています。 そのため金羊毛が、メディアの背から生えている翼のように見えます。 筋骨隆々とした頑健な男たちに囲まれながら、乳房を露にして圧倒的な気迫を放つその姿は、まるでドラクロワの「民衆を導く自由の女神」のようです。 船内は、陽を浴びているのか、燃えているかのように赤褐色に染まっています。 それが海の青と先に見える白い船の色彩の対比によって、画面は三分割され、強いアクセントがかかり、鑑賞者に強烈なインパクトを与えています。 緊迫感を伴った、実に臨場感溢れる画です。 本作品「金羊毛伝説」は、ラファエル前派の一人である英国の画家ハーバード・ジェイムズ・ドレイパーによって描かれました。 数多あるメディア作品のうちの傑作品です。 |
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