「曲芸師たち」

ギュスターヴ・ドレ

1874年制作 ロジェ=キリオ美術館所

 

 

 

 

思わず息を呑んで見入ってしまう画面が目の前に広がっています。

何という悲哀に満ちた絵なのでしょうか。

悲しみという悲しみがキャンパス中を覆いつくし、それが溢れ出てきています。

この絵を目にした人は誰も皆、時が止まったかのようにその場に凍りついて動けなくなってしまうに違いありません。

実に凄絶な光景です。

画面の中央部分をご覧下さい。

そこには衣を巻いた頭部から血を流している幼い子供の姿があります。

子供は恐ろしく苦しそうな顔をしています。

苦悶する喘ぎ声が今にも聞こえてきそうではありませんか。

そして母親と思われる女性が、自分の体を後ろの壁に寄りかからせるようにしてその子を必死に抱きしめています。

彼女はエキゾチックな風貌で青い絹のインドの民族服のような衣装を纏っています。

またその横には魚人間とも思えるような珍妙な格好と化粧をした男性が大きく目を開いて、二人の様子を食い入るように見つめています。

その瞳には涙が溜まっており、それは今にもこぼれおちてきそうです。おそらくは彼は父親なのでしょう。

彼の格好が滑稽なだけに悲哀さがよけいに増して感じられます。

彼らは路地裏のようなところで木の椅子に腰掛けています。

その背景にはピエロの格好をした人が混じった人々の姿が見えます。

彼らの衣装、そして背後にいる人々たちの様子から、彼らがどういう人間なのかがわかりますね。

そう、タイトル通り彼らはサーカス団の「曲芸師」なのです。

頭から血を流している子供は曲芸中に事故にでもあったのでしょうか。

彼は間もなく「死」を迎えます。

母親の足元に並べられているトランプのカードがそれを暗示しています。

自分の腕の中にいる我が子に「死」は確実に訪れるのです。

それに直面している母親の悲しみは、計り知れるものではありません。

そしてまた、わかっていながらそれを止めることのできない父親の嘆きが一体どれほどのものなのかもです。 

「曲芸」という人々を楽しませる職に身をつけている人々だけに、その悲哀さや意外さが一層深まって感じられます。

しかし悲惨な光景ではあるものの、絵の中は静寂に満ちており、また神聖さすら感じられます。

それは彼らは嘆きながらも静かに自分たちの運命を受け入れているからです。

ギュスターヴ・ドレの目には、この悲劇を受け止めている彼らの姿が、崇高なものとして映ったのでしょう。

彼はそれをキャンバスの中に赤と青の色調を用いて見事に描き出しました。

しかしこの作品が発表された当時は、良い評価はされませんでした。

風俗画風の内容と大画面が不釣合いであるとみなされてしまったのです。

当時ギュスターヴ・ドレは大変な人気のあった挿絵画家でした。

その彼が描いた傑作品であったのにも関わらず認められなかったのです。

 


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