「眠るティターニア」
フランク・カドガン・クーパー
1928年制作 個人蔵

深く濃い緑色の中に眩いほどの黄金色が燦然と輝いています。
光を放っているのは、金色の絹の衣を纏った世にも美しい女性です。
その絶世の美女は、しどけない姿勢で気持ちよさげに寝ています。
どんな夢を見ているのでしょうか。
恍惚とした表情を浮かべています。
女性が眠っているのは深い森の中。
木々や草花にその眠りを守られているかのようです。
この眠れる森の美女は、英国作家シェイクスピアの作品「真夏の夜の夢」に登場する妖精の女王ティターニアです。
二組の男女が婚姻問題により、妖精界に足を踏み入れるも、そこでのいざこざに巻き込まれ、てんやわんやの大騒ぎとなりながらも結末には大団円を迎える、悲劇の多いシェイクスピアにしては珍しい喜劇です。
人間世界と妖精世界が交わって織り成されるこのストーリーは、幻想的雰囲気が漂い、芸術家のインスピレーションを刺激したのでしょう。
多くの画家に題材として取り上げられてきました。
本作品もそのうちの一作です。
画面に描かれているのは、妖精王を怒らせたため、手下のパックによって眠りにつかされた王の妻のティターニアです。
それも、目が覚めたときに最初に見たものが誰であれ恋をしてしまうという魔法のかかった眠りでした。
この後、ティターニアは目覚めますが、最初に目にしたのはなんと魔法によって頭部をロバに変えられた機織職人のボトムだったのです。
ティターニアの悲劇ともいえる喜劇の始まりです。
タイトル通りの本作品「ティターニア」を描いたのは、19世紀後半の英国に生まれた画家フランク・カドカン・クーパーです。
クーパーは、最後のラファエル前派継承者と称されています。
その呼称よろしく彼は、英国文学を題材にした鮮やかな色彩の浪漫的雰囲気漂う作風の作品を創作しました。
とりわけ艶美な女性の髪や豪奢で意匠を凝らした衣装を描くのに長けていました。
本作にもそれがよく表されています。
ティターニアの艶やかでたっぷりとした亜麻色の髪、そして蝶の羽を連想させる濃緑色の模様が織り込まれた金色の絹織物が異彩を放っています。
むせかえるような自然の緑に囲まれて恋の魔法をかけられて眠るティターニアの姿は実に甘美で官能的です。
観賞者は、密林の中で思いもかけず「眠る美神」に遭遇したかのような錯覚にとらわれます。
美の極致ともいえる作品です。

1928年にロイヤル・アカデミーに出品された作品です。

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