「ラプンツェル」

フランク・カドガン・クーパー

1908年制作 個人蔵

 

 

 

一目見てこの女性が誰だかわかりますね。

    そう、彼女は、”ラプンツェル”。世界各地で愛された物語に出てくるヒロインです。

    魔女によって高い塔に幽閉された彼女は、窓からその長い髪を垂らして王子が上ってくるのを待ちます。

    画面はあまりにも有名なその場面を描いたものです。

    まず目を引くのはやはり物語のメインの髪でしょう。

    画面いっぱいに広がったその髪は、ヤギの毛ような質感をもって広がり、波打っています。

    黄金の滝の滝のようではありませんか。

    画面右下に垂れ下がる彼女の髪は結わえられ、まるで何かの生き物のように、今にも動き出しそうです。

    ラプンツェルは豪奢な絹の衣服をまとっていますが、肩や首筋を露にするほど、はだけさせています。

    おとぎ話のヒロインとは思えないほど、エロティックで甘美的です。

    そのまとっている衣服のすばらしさにはまた驚きます。

    蓮の花の形をした幾何学的な模様が美しく整備されて描かれ、そしてそこに目にも鮮やかな緋色と、髪と同じ黄金色が塗りこめられています。

    ここが豊かな布地を好んで描くクーパーの才が最も発揮されている部分です。

    そして、ラプンツェルの表情をご覧ください。

    なんという恍惚とした表情をしているのでしょうか。

    ほとんど閉じられた瞳、半ば開いた唇からは、色情が発せられているかのように感じ、妖美的な雰囲気が立ち込めています。

    画面に描かれたラプンツェルは、魔女にとらわれた可憐な娘というよりも、男性をその魔力で破滅させる魔女メディアを連想させます。

    実は彼女自身が魔女だったのかもしれませんね。

 


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