夢がたり 久保田早紀 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
1979年にリリースされた久保田早紀の音楽集である。名曲「異邦人」を含め、全11曲収録されている。 そのすべてが外国語を使用していないのにも関わらず(カタカナでは多少使用)、異国情緒がかなり濃い。また幻想的で物語的ある。 曲はどれもリズムが単調であり、フレーズも口ずさみ易いため、覚えやすく歌いやすい。 だから「夢がたり」とタイトル通り、簡単に夢の世界へと誘われる。 冒頭の「プロローグ」は、曲のみ。切ないけれど心地よいピアノの音が胸にしみこんでくる。 幻想世界への旅、夢の物語の始まりである。 見知らぬ世界で目を覚ました「朝」・・・。自分が何者かがわからない・・・。「此処は何処 今は何時なの 私は誰」と自身に問いかける。 そして気づく。自分は「空と大地が触れ合う彼方」にいるである「異邦人」だということに。 此処では、誰も「過去からの旅人」の自分を気にとめたりなどしない・・・。 「哀しみもて余す」自分は「帰郷」する。「この坂を上りつめ」たところにある故郷に。そう、確かにあった。昔と変わらぬままの「ふるさとの街」は。 けれど自分は変わってしまった。自分の居場所は、求める場所は、もうこの故郷ではないのだ。 自分が求めているのは、そう、”あの人”もとだ。だから”あの人”をさがす。 「うしろ姿がやけに寂しいギター弾きをみませんか」と”あの人”を訪ねてさすらう。しかしみな「黙って首をふるばかり」だ。 何処?”あの人”は何処?何処にいるの?「サラーム」と叫ぶ。「どれほど歩いても 離される 遠ざかる」だけ。「だけど会いたい」・・・。 しかし星は告げる。「あの人は帰る」と。”あの人”が自分のもとへ帰れば、夜は明ける。この「薄紫をまとう空」の「白夜」が。 だから自分は「羊のように静かに待っているだけ」しかできない・・・。 けれど”あの人”に会えない苦しい切ない想いからは逃れられない。心が勝手に「夢飛行」してしまう。 思い出の腕から遠ざかりたくて、忘れたくて、自我を消失させてほしいと望んでしまう。 「名前も姿も顔も過去さえも変われる国」へ行きたいと願ってしまうのだ。 そしてついには「幻想旅行」してしまう。このやりきれないほどの「かわく胸」を「うるおせるオアシス」をさがして心が非現実世界へと旅立ってしまう。 あてのない悲しい旅路だったが、それは過去への回帰の道に繋がっていた。 そして思いだす。”あの人”のことを。”あの人”はこの世界にはいない幻想世界の人だったということを。 名前は「ナルシス」。青い瞳のきれいな少年。過去の「罪びとのときめき」と「柱時計の音」がそれを蘇らせた。 長い旅路の末、ついに自分は見つけたのだ。”あの人”を――。”あの人”は何処ででもなく、すぐ近くに存在していた。そう、「降るような星空」の中に。 ”あの人”は「オリオン」に抱かれていた。「新しい星」になって。”あの人”は「星空の少年」だったのだ。 そして夢の旅は終わる・・・。 それは「誰一人気づかない夜の出来事」だった・・・。
|