乙一(おつ・いち)
1978年生まれ
福岡出身
豊橋技術科学大学工学部卒業
本名・足立寛高で映像作家としても活躍している。
1988年「女が髪を切った時」で星新一ショートショート・コンテスト入賞
1996年「夏と花火と私の死体」で第6回ジャンプ小説・ノンフィクション大賞受賞
2002年「GOTHリストカット事件」で第3回本格ミステリ大賞受賞
彼の作品を初めて読んだときの衝撃は今も覚えている。
読んでびっくり!文章が恐ろしくなるくらい「上手い」のである。
わしのように本を読むことが日常生活の一部となり、年間読書冊数が300冊を超えると、大抵どんな本を読んでも「文章が上手」とは思えなくなってしまう。
美味しいものも毎日食べ続ければ、やがてそれが当たり前の味となり「美味しい」と感じることができなくなってしまうのと同じように。
マンネリ化したわしの文章への感性に、彼の作品はスパイスを入れたかのように強烈な刺激を与えた。
作家である以上「文章を書くことが上手」なのは当然なのだが、それでも彼の文章は際立っている。
初めて読んだ彼の作品は、幻冬社から発行されている「死にぞこないの青」だった。
この作品を書いたとき、彼はまだ23歳だったというから更に驚きだ。
この作品もそうだが、他の作品の題材も別段目新しい訳ではない。
だが、彼の描く作品は凄烈な新鮮さがある。
文章の技巧よりも、題材の目新しさがもてはやされている昨今、これは脅威的なことではないだろうか。
まさしく天才である。実際、彼は17歳という若さでデビューしており、20代でベストセラー作家にもなった。
彼の才覚は、的確な文章表現にある。不明瞭で形のない”心に浮かんだ思い”を、完璧に言葉で表すことができるのだ。
彼の描く文章は「そう!そうなんだよ!それだよ、それっ!」と叫びたくなるくらい、心情の表現が明確なのだ。
発表した作品の何作かは映画化されている。
表現が明確なので、映像化しやすいのだろう。こういった作品を描ける作家はそうはいない。
ただ残念なことに、描いた作品全てが傑作品というわけではない。
飛びぬけて秀逸な作品もあれば、世に出してよい作品とは思えぬものもある。
まあ、まだ若いので、駄作を発表して世間からたたかれるのも修行のうちかもしれないが。
彼の描く作品は、哀愁的かつ刹那的だ。
作品に登場する人物たちは、繊細で臆病で人を傷つけることに怯えるような性格の持ち主が多い。
けれど、根底は決して弱くなくかつ優しさに満ち溢れている。
これが読者を惹きつけている最大の要素である。
人からどんなに傷つけられても、優しさは忘れてはいけないのだ。彼は作品を通してこういいたいのではないだろうか。
全ての人がこうでありたいという心の持ち方。だから彼の読者は彼の作品を読んで感動するのだ。
とまれ、これから先も秀作でも駄作でもいいからたくさんの作品を書いて、成長してもらいたいものである。
彼ほど成長が楽しみな作家はいないのだから。なんかわしえらそうやね^^。
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