唯川恵(ゆいかわ・けい)
1955年生まれ
石川県金沢市出身
金沢学院短期大学卒業
北國銀行勤務後、作家として活動。
1984年「海色の午後」で第3回コバルト・ノベル大賞受賞
2001年「肩ごしの恋人」で第126回直木賞受賞
わしが彼女の作品を初めて読んだのは、今から・・・年前の中学生のときである。
その当時、彼女は集英社が発行している少女小説誌「コバルト」で執筆していた人気作家だった。
今でも「コバルト」は発行されて続けているが、当時の面影は全くない。
今現在の「コバルト」は同人誌くずれの作品集となってしまっている。実際、執筆しているのは同人誌出身の作家達だ。
当時の「コバルト」は少女小説誌とはいえ、かなりレベルの高い「文豪の卵」といってよいほどの作家達が執筆していた。
現にその「コバルト」で執筆していた作家らからは、幾人かの直木賞受賞者が誕生している。
この唯川恵氏もそのうちの一人である。
彼女は2001年に「肩ごしの恋人」で直木賞を受賞した。デビューしてから実に17年後のことである。
彼女は決して卓越した才能を持った作家というのではない。
ごく当たり前の倫理観を持つ、性格も地味目な一般的な女性だ。
作家としてデビューしたのは29歳であり、決して早いとはいえない。また作家活動を始める前はごく普通のOLだった。
そんな彼女がどうして多くの読者を惹きつけることのできる人気作家になれたのであろうか?
それは、彼女の作品を読めば全て理解できる。
彼女の作品は、小説という非現実的な世界ではなく、ごくありふれた日常生活そのものである。
自分の瞳に映った人々のドラマを、飾らない自然的な言葉で表現しているのだ。
率直で素直なむきだしの”思い”がそこには込められている。
ありのままの自然な感情の表現が、多くの読者に共鳴し共感を持たせているのだ。
彼女の作品の中には、必ず”私”がいる。何処にでもいる、でもたった一人しかいない”私”が。
彼女は”私”なのである。
彼女の作品を読んでいると、完全に自分は登場人物になってしまう。
物語の中に読者を引き込むことのできる作品を描く作家はあまたいるが、全く登場人物にならせてしまう作品を描く作家はほとんど いないだろう。
読者はあくまで読者であり、他人のドラマを横目で見て楽しんでいるだけの第三者にしかすぎないからだ。
しかし彼女はそうすることができる作品を描ける作家である。
曇りのないまっすぐな瞳で自分の心を見つめ、そしてそれを表現できる作家なのだ。
今尚、執筆活動を続けているが、そのスタイルは全く崩れていない。
彼女は直木賞受賞後もこつこつと作品を発表し続けている。根が努力家なのだろう。だからこそ読者は彼女の作品を読み続けるのだ。
彼女の作品は、発表される毎に深みが増し、また透明度が高くなっている。
ページを開く度に、光の粒子がきらきらと音ををたててこぼれていくような錯覚にさえ見舞われるほどだ。
20代、30代の女性には、是非彼女の作品を読んでもらいたいと思う。
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