お気に入りの短編作品  
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  「休日はパリで」 著者:さいとうちほ
 


ミュージカル映画「パリのアメリカ人」が下地となったラブストーリーのです。
ヒロインの桜舞尉(さくらまい)はプリマを夢見る東京シティ・オペラバレエ団のダンサー。
その舞尉の所属する一団がパリ・オペラ座で公演することになり、彼女はメンバーとともにパリにやって来ました。
群舞の一人である彼女は出番は少なく、友人たちとレッスンを抜け出して街中へ出ます。
そこで彼女は偶然にジェイドと名乗るアメリカ人と出会いました。
カタコトの日本語をしゃべる彼は「パリのアメリカ人」に憧れてパリへやってきたと言い、二人は一緒にパリの名所を巡ります。
そしてお別れの時間になったとき、なんとジェイドが何者かに狙撃されてしまうのです。
ジェイドは自分の働いている会社のライバル会社の仕業だと語りました。
彼が命の危険にさらされていることを知った舞尉は、彼を自分の宿泊しているホテルの部屋へ連れていき匿います。
そしてジェイドは自分の素性を明かさず、オペラ座の手伝人として一座の雑用をすることになりました。
しかし公演も間近になった日、突然、舞尉は強面の黒服の男性たちに囲まれてしまいます。
空からはヘリコプターも降りてきました。
彼らはジェイドの行方を捜しているようです。
ジェイドは一体何者なのでしょうか?
そして2人の行方はいかに!?

主人公の性格からか、明るいラブストーリーです。
舞尉は自他ともに認めるバレエ馬鹿ひとすじの天然女子。
その彼女がパリの街中で偶然出会った、ちょっとおとぼけが入った金髪のメガネ青年(実はかなりの美青年)。
2人は「パリのアメリカ人」が好きということで意気投合し、映画を地でいこうとパリの街中を巡ります。
それは読み手のこちらがワクワクしてしまうほどの楽しさに溢れていました。
パリの観光名所を背景にくるくると表情を変えてポーズを取る舞尉。
そんな彼女をジェイドは眩しげに見つめます。
特にルーブル美術館を背にアラベスクのポーズをとった舞尉を、まるで宝物を見つけたような瞳で見たジェイドが描かれた場面が印象的でした。
異国の地で出会った外国人男性との映画のような素敵な恋物語です。



★本作品収録本はこちら→恋物語(12)(フラワーコミックス)

   
  「秋の姫」 著者:さいとうちほ
 
穏やかな海の広がる景勝地に住む英と八誠は親友同士。
その二人の前に、ある日、素晴らしく美しい少女が現れました。
彼女の名は秋姫。彼らと同年代ですが、大人びてミステリアスな雰囲気を持っています。
彼女は英の従妹でした。家庭の事情で祖母の下で暮らすことになったのです。
純粋な心の持ち主である八誠はあっという間に秋姫の謎めいた美しさに囚われ、虜になってしまいました。
八誠は秋姫のいうことには何でも従うようになってしまったのです。それでも英と八誠の間柄に変わりはありませんでした。
そして時は過ぎ、不可思議な関係を維持したまま三人は中学生になりました。
そして不幸が訪れました。秋姫の庇護者であった祖母が亡くなってしまったのです。
身寄りのない秋姫は別の庇護者の下へ行かなければなりません。
秋姫は何処にも行きたくないと言って、八誠にとんでもない申し出をします。そして知るのです。
秋姫が本当に好きなのは英であったことを。そして英もまた秋姫を思っていたことを。二人は言葉にせずとも互いに思い合っていたのです。
穏やかだった三人の関係が崩れました。景勝豊かな地で育まれる三人の恋物語です。

ページ全般に渡って広がる少年少女たち特有の甘酸っぱい感傷が、堀辰雄や梶井基次郎などの昭和初期の文学作品を彷彿させました。
また情感のこもった印象強い場面が多く、それが作品の芸術性を高めています。
特に秋姫の長い黒髪をぎゅっと掴む八誠の姿には、胸が塞がる思いがしました。
人はいつまでも幼いままではいられません。
三人の関係は哀しい終わり方でしたが、それでも色褪せない思い出を抱えて成長した彼らの姿には涙が溢れました。
 


★本作品収録本はこちら→恋物語(14)(フラワーコミックス)
   
  「月下小夜曲」 著者:さいとうちほ
 
本作は「白木蘭円舞曲」の番外編です。
ハルピンから上海へと戻った湖都ちゃんと将臣さんのその後の物語が描かれています。

不治の病に冒された将臣さんは上海の病院へ入院しましたが、小康状態となったため退院し、湖都ちゃんと一緒に暮らし始めました。
それでも病は日々、将臣さんの肉体を蝕んでいきます。
湖都ちゃんは将臣さんが自分の前から消えてしまうことを想像しては悲しくなります。
サジットを失ったばかりなのに将臣さんまでいなくなってしまったら自分は耐えられるのだろうかと不安にも襲われました。
それは将臣さんも同じでした。
湖都ちゃんを一人残すことに恐れを抱いていたのです。
残された日々を大切に生きたいと思いながらも、確実に訪れるそのときに二人は怯えました。
そんな中、将臣さんの父親と妹が日本からやって来ました。
そして湖都ちゃんと別れて日本へ帰れと言います。
将臣さんはその通りにします。
湖都ちゃんが自分の子供を身籠っていることも知らずに。
置いていかれた湖都ちゃんは将臣さんに手紙を出します。
何通も何通も。
しかしその手紙は将臣さんに渡ることなく妹・華子の手で隠されてしまったのです。
だから将臣さんはずっと湖都ちゃんが自分の子供を宿しているのを知らないままなのでした。
一向に返事が来ないので、湖都ちゃんは自分一人で産んで育てることを決めます。
そんな湖都ちゃんの前に、外国から帰ってきた将臣さんのお兄さんの龍一さんが現れ、二人の現状を知ります。
湖都ちゃんは龍一さんに励まされ、一緒に日本へ帰ることになりました。

湖都ちゃんが将臣さんと暮らし始めてから彼の子を身籠り、そして出産し、最期を看取るまでのお話しです。
「白木蘭円舞曲」の後、将臣さんが亡くなるまで湖都ちゃんは彼と一緒に過ごし、そして幸せな最期を迎えた、という安易な想像は払拭されました。
またしても二人はすれ違ってしまいます。
それも相手を慮ってのことで。
それでも終局、将臣さんは湖都ちゃんと再会し、出産に立ち会うことができました。
そして生まれた息子をその手に抱き、名前を与えて、湖都ちゃんに抱かれながら笑って逝きました。
悲しいながらも実に幸福感に満たされた最期でした。
哀切と喜びが一体となった涙なしには読めない感動の物語です。


★本作品収録本はこちら→恋物語(8)(フラワーコミックス)
   
  「紫丁香夜想曲(ライラックノクターン)」 著者:さいとうちほ
 
円舞曲は白いドレスで」の番外編です。
本作では本編終了後から一年経った世界が物語となっています。
舞台は満州国ハルピン。
主人公は本編のヒロイン・湖都ちゃんの婚約者だった鬼堂院将臣さんです


将臣さんはある日、川で気を失っている少女を見つけます。
彼はその少女をモグリのロシア人医師のところへ連れて行きました。
将臣さんはその少女を医師に押し付けるようにして軍部へ戻ると、驚くべき事実がわかります。
なんと自分が助けた少女は日本人華族との結婚式から逃げ出した清王朝の麗香王女だったのです。
急ぎ、彼はまた少女のいる診療所へ戻りました。
自分の身元がばれた王女は自殺しようとします。
将臣さんはそれを止めて、自分が睡眠薬を飲んで寝ている間に王女に逃げろと言いました。
しかし王女は逃げませんでした。
将臣さんが目を覚まして起きると短く髪を切った彼女がいたのです。
そして彼女は自分を男の使用人として雇えと言ってきました。
半ば脅されるようにして王女を側におくことになった将臣さんは、彼女に猫猫(マオーマオ)と名付け下働きをさせます。
王女であるばずの猫猫は意外にも何でも器用にこなしました。
良く働くため、傷心の将臣さんの心持ちも明るくなってきました。
そして平穏とも言える日を越していくと、愕然する事実が判明するのです…。


富国強兵の政策にのっとった日本は、軍部が破竹の勢いでその力を増していました。
特に関東軍と呼ばれた帝国陸軍は最強とまで称されます。
そして他国である中国を侵略し、そこで自分たちの国の満州国を造り上げ、横暴を極めます。
本作では、それを隠蔽するために清王朝と日本との婚姻政策が図られました。
清の皇帝・溥儀のいとこである麗香王女を日本の華族と結婚させようとしたのです。
清朝側は勿論そんなあからさまな外交は望むわけがありません。
誰が侵略者と結婚したがるでしょうか。
逃亡を試みるのも当然でしょう。

満州国は日本が犯した最大の罪です。
本作にそれがよく表されています。
日本の傍若無人な振る舞い、そしてそのために辿った一人の悲しすぎる少女の末路には胸が塞がる思いがしました。
架空のお話しとはいえ、読むのが辛くありました。
しかし直視しなければならない現実でもあります。
日本という国の未熟さを見た気がしました。

ノクターンの美しい調べにのせてライラックの花びらと香りが漂う哀愁の物語です。
 


★本作品収録本はこちら→紫丁香夜想曲(フラワーコミックス)
   
  「架空の森」 著者:川原泉

川原泉氏は、「
笑うミカエル 」や「甲子園の空に笑え」で大人気を博し、そのほのぼのとした作風で少女たちの心を鷲掴みにした超人気漫画家です。
本作品「架空の森」は、そのカーラ教授の代表作品の1作であり、今から(2015年現在)約30年前に描かれました。
白泉社から発行されている雑誌「花とゆめ」に読み切り作品として掲載され、大好評を得た傑作です。

また本作品は、漫画好きによる漫画好きのための雑誌「ぱふ」にて、読者が選ぶその年に掲載された短編部門で第1位を獲得しました。
かくいうわしも川原作品の中で本作品が一番好きです。

ストーリーはいかにも川原氏が描く透明感漂うハートフルな内容です。
作品中の登場人物(
狩谷苑生さん)の言葉によると、「お茶漬けにフォアグラを乗っけた」ような話だそうです。(食べたいっっ!!)
ホントにタイトル通り、架空の出来事のような幻想的で人情的な、まるで童話のようなお話です。
主人公は小さな町に住む無口な少女・
狩谷苑生(かりや そのお)さん(14歳)。
お家は剣道の道場をしており、自身も二段の腕前です。
その彼女には小さな年下の少年の友人がおりました。
少年の名は
御門織人(みかど おりと)君(11歳)。
とてもおしゃべりが大好きな元気な少年です。
彼は苑生さんのことが大好きでした。
苑生さんの道場に通い、そしていつも苑生さんと遊んでいました。
少年は優しいお母さんとの二人暮らしでとても仲睦まじいのですが、何やら訳ありげな様子です。
そんなある日、町に妙な外人が現れました。
何やら織人君母子を狙っている様子です。
この小さな町で妙な気配のする不穏な空気が漂い始めました。
少年はそして苑生さんは一体どうなるのでしょうか…?
と、ドキッとしますが、物語の終末はもちろんハッピーエンドです。
ラスト5ページは涙なしには読めません。
胸打つラストです。

★本作品収録本はこちら→ 美貌の果実 (白泉社文庫)
   
  「ラヴ・ストーリー」 著者:樹なつみ

今から(2015年現在)約30年前に白泉社で発行されている少女漫画雑誌「LaLa」で掲載された樹なつみ氏の短編作品です。

本作品は著者の人気長編作品「朱鷺色三角」の番外編です。
「朱鷺色三角」の主人公・霖君のご両親のストーリーであります。
お母さんのリンダさんがお父さんの霙一(えいいち)さんと出会い、そして別れるまでの恋愛物語が描かれています。
舞台背景は日本が高度経済成長期まったただ中の1970年代です。
タイトル通り、ホントに「ラヴ・ストーリー」です。
いえ、これが本当の「ラヴ・ストーリー」なのです。
主人公のリンダさんは米国人の血が半分混じった超美人のハーフです。
そして「気が強くて」「わがまま」な最高のモデルでした。
でもそれだけではありません。
彼女は実に実に芯の強い気風のいい女性だったのです。
作者曰く、「8歳年上の霙一より強い1970年代の申し子」なのだそうです。
狭い島国の日本で、ハーフだった彼女は偏見の目で見られて、小さな頃からきっと辛い思いをしたきたハズです。
しかも父親が誰か不明で、母親はアル中ときています。
(お母さんは米国人相手に娼婦をしていたためだからです)
そんな辛くて苦しい環境を押しのけ、トップモデルへと上り詰めたのだから、相当に凄い女性なわけです。
彼女の外見はもちろんのこと内側からにじみ出る生命力のオーラは絶望の淵にいた霙一さんを死への道から引き返させたほどのですから…!!
霙一さんは絶対に犯してはならない背徳の罪に苛まされ、故郷から逃げ出し、リンダさんの前に現れたのです。
二人の恋愛の行方は果たして…!?

本作品は「朱鷺色三角」の本編終了後に同じく「LaLa」で掲載されました。
その後はまたまた霖君が主役で続編の「パッションパレード」が開始されます。
読み切り作品なので、ホントに短いストーリーですが、この中にすべての”愛”がつまっています。
”愛”とは一体何か、という疑問は、本作品を読むときっと解けること間違いなしです。
本作品をまだ読まれていない方はぜひ本編と合わせて、ページをめくっていただきたく思います。

★本作品収録本はこちら→ 朱鷺色三角(トライアングル) (第3巻) (白泉社文庫)

   
  「花咲ける青少年」 著者:樹なつみ

樹なつみ氏版「ローマの休日」です。

表題の「花咲ける青少年」は「八雲立つ」に並ぶ樹なつみ氏の代表作品です。
今から(2015年)約30年前に、「朱鷺色三角」シリーズ終了後に、雑誌「LaLa」で連載され、大好評を博しました。
今尚その人気は衰えず、復活版が刊行されたり、ミュージカルが上演されたり、特別編が連載されたりとしています。

本編は、主人公の花鹿(カジカ)・14歳が父親が選んだ三人の男性の中から夫を決めるというストーリーです。
この三人の男性たちはイケメンなのはもちろんのこと、頭脳明晰な上、超がつくほどの大金持ちで、高い高い地位を保持しています。
この世の女性ならば喉から手が出るほど欲しい男性ばかりです。
そしてその三人以外にもこれまた彼らに負けないいい男の幼馴染や可愛ゆい坊や顔のボディガードが登場します。
主人公はまだ少女だけれど野性的な女性で思いやり深く、心も体も美しく、周囲の男性はみな彼女を愛しています。
彼らと交流を深めていくうちに、花鹿にはある深い秘密が隠されていることを知ります。
それは自分の出生にまつわる世界を揺るがす大きなものだったのです。
果たして花鹿の運命やいかに!?そして彼女は一体誰を夫に選ぶのでしょうか…?
世界の政変を舞台にした非常にスケールの大きなストーリーです。
コミックスでは12巻まで刊行され、長期に渡って連載されました。
あれ?ここ、短編作品のコーナーじゃないの!?と思われた方、慌てない慌てない。
わしが紹介したいのは、この本作品が始まる前のお話なのです。
タイトルは同じ「花咲ける青少年」です。
ただし主人公は違います。
主人公は本編の主人公・花鹿のおじいさんとおばあさんになります。
その名もマハティとキャスリーン。
マハティは実は、と、ある小国(架空ですが)の王子様でした。
それも第一王位継承者であり、次の王様になることがすでに決定している人物なのです。
だから権力闘争に巻込まれ、常に命を狙われています。
それから逃れるために、彼は万国博覧会に乗じて米国NYへと逃げてきました。
そこで彼は場末の酒場で働くキャスリーンと出会います。
米国は折も折不景気の真っただ中です。
仕事がなくてあぶれる人も多く、飢え死にしてしまう子供もたくさんいました。
ですがそんな苦境にもめげずにキャスリーンは気丈で、ときどきアンニュイになったりはするけれど、とても明るく毎日を生きています。
リンダさんに似てますね。(樹なつみ氏は米国女性を描くのが上手いですねえ~)
二人の出会いもリンダさんと霙一さんに負けず…、いえ、それ以上にインパクトがあります。
キャスリーンがふと店の外に出るとアラブ風民族衣装を纏ったエキゾチックな美少年が立っていたのですから…!!
キャスリーンは、当然この少年が異国の王子様だということは知りません。
どこかにコスプレして遊びに行って迷子になってしまった子だと思い込み、彼を自分の店の中に引き入れるのです。
それから二人の…いえ、本編の物語はつながっていきます。
このときのマハティは15歳。
王宮内で厳格な教育を受けて成長したため、学問は秀でて腕っ節は強いけれど、まだまだとてもとても世間知らずな少年なのです。
ですから3歳年上のキャスリーンとことごとくぶつかり合ってしまうのですが、次第に二人は惹かれあっていきます。
ただ生意気な年下の少年だと思っていたマハティが外見通り心の美しい男性に、
口やかましいあばずれだと思っていた女が温かい心の持ち主の優しい女性へと、
お互いの中で変化していったのです。
そうして二人は結ばれます。
しかし国の違いや身分の違いからも二人は一緒になることはできません。
しかしマハティは「自分の妻となるのはキャスリーンだ」と主張して譲らないのです。
女性としてここまで男性にここまで思われたら最高に幸福でしょうね。
しかもお相手は美形の王子様です。
二人はやはり別れを余儀なくされますが、愛の神様はきちんと彼らにプレゼントを下さったのです。
そう、本編の主人公となる花鹿のお父さんを。
この子供、花鹿のお父さんは、才覚を発揮してやがて世界を牛耳ることになる男性へと成長します。
誠、愛の力は偉大なり。
皆様もぜひこの胸打ち震わす感動のラヴ・ストーリーをご覧ください…。

★本作品収録本はこちら→ 花咲ける青少年 1―愛蔵版 (花とゆめCOMICSスペシャル)
   
  「フィリシア」 著者:成田美名子

「フィリシア」は成田美名子氏の名作「エイリアン通り」に収録されている短編作品です。

とはいっても、本編「エイリアン通り」の作品ではありません。
本作品は、本編の主人公シャール君が出演した映画を漫画家した作品です。
だから本編を読んでいなくとも読むことはできますが、本編を読んでいた方がより一層楽しんでページをめくることができると思います。

お話はランドルフ君(エイリアン通り登場人物)演ずる金持ちのドラ息子が、シャール君が演ずる「フィリシア」なる女性と出会うところから始まります。
ひょんなことから知り合った少年とフィリシアは何故か一緒に暮らすことになりました。
少年は大金持ちの息子さんなので、自分と彼女の生活を支えることくらいどーってありませんが、
フィリシアさんは、彼のことを「働いている人」だと勝手に思い込んでいました。
この少年は多少ひねくれているとはいえ、根は素直で真面目な少年です。
いい年をして「働いていない」「親から生活費をだしてもらっている」なんて言えなかったのです。
嘘をつこうと思えばいくらでもできたのに、そうしなかったのは話が進まないから…ではなくて、彼が正直者だったからです。
彼は生れてはじめて「働く」ことになりました。
それもレストランの皿洗いです。
はじめて「労働する」ものにとっては、とーってもキツクて辛い仕事です。
お皿は重いし、汚れはなかなか落ちないし、めまいがするほどの量があるし、エトセトラエトセトラ…ですから。
「働く」ということが少年はどんなに大変かがよくわかるようになりまりました。
そしてその尊さもまたわかるようになるのです。
少年は生れてはじめて「お給料」をいただきました。
感動です!
自分の力で得たお金です。
そのお金で彼はフィリシアに着替えのスカートを買ってあげました。
(彼女は着替えどころか何一つ自分のものを持っていなかったのです)
フィリシアは大喜びでした。
そんな彼女を見て、少年も嬉しく感じました。
自分で働いたお金で買った服を着て喜んでいるフィリシアを見て…。
彼の中で何かが変わり始めました。
と、そんなときある悲報が彼に届きました。
それは、彼の父親が交通事故で亡くなったという知らせだったのです…。

映画作品として描かれた作品なので、本当に映画を見ているような感覚に陥ります。
コマ割など、ホントに映画コマそのものです。
バックグラウンドの映画音楽も聞こえてきそうです。
内容は何気ない、本当に何気ない日常生活の一部を切り取ったかのようなお話です。
雰囲気がなんとなくニューシネマパラダイスに似ています(そう感じるのはわしだけ?)。
実写版で映画化してほしいハートフルな作品です。
シャール君とランドルフ君を思わず名優!と叫んで喝采してしまいたくなります。
スゴいですよね―。
自分の漫画作品の登場人物を作品の中で映画出演させて、そこで「名優だ!」なんて思わせてしまうなんて。
成田美名子氏ってホントに素晴らしいストーリーテラーだと思います。

★本作品収録本はこちら→ エイリアン通り(ストリート) (第4巻) (白泉社文庫)
   
  「ノアの宇宙船」 著者:清水玲子

名作「月の子」で知られる清水玲子氏の初期短編作品です。

初期に描かれた作品ではありますが、画は現在(2015年現在)とほぼ変わっていません。
繊細かつ華麗、そして流麗で美的です。

主人公はジュニアという名の天才科学者(男性)です。
その彼が宇宙船内に起こった事故により、現在の記憶を失くしてしまったところから物語は始まります。
彼の記憶は14歳のときにまで戻ってしまいました。
だから今自分が何故ここに(宇宙船内)いるのか、そして何をしていたのかもわからなくなってしまいました。
今では天才学者と称されている彼ですが、記憶が戻った当時の年齢の彼は勉強大っ嫌いのヤンチャな男の子だったのです。
だから当然本人はもちろんのこと、宇宙船内の人々も大混乱になりました。
なにせ彼らの乗っている宇宙船は彼が設計したのですから…。
しかも彼には婚約者がいて、その彼女も船内に同乗しているのです。
彼には何が何でも元に戻ってらわなければなりません。
ジュニア君は、未来との自分のギャップに苦しみながらも、不慣れな宇宙船内で時を過ごしていきます
そして次第に事情が明らかになってきました。
あんなにも毛嫌いしていた勉強をする科学者に自分は何故なったのか、それが詳らかになるのです。
それは彼の悲しい悲しい過去の出来事が原因だったのです…。
それはタイトルの「ノアの宇宙船」にも繋がっています。

人間はふとしたことがきっかけで変わることができる、何かに触発されて精神が強くなることができる…。
それは記憶はなくとも体のどこかで、そして細胞が覚えています。
そんなことを教えてくれる胸にじんとくるSFロマンストーリーです。

★本作品収録本はこちら→ノアの宇宙船―清水玲子傑作集 (花とゆめCOMICS)

 

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