円舞曲は白いドレスで

著者:さいとうちほ

 

 

 

太平洋戦争が始まる数年前の日本が舞台の物語です。

主人公の名前は青樹湖都ちゃん、16歳。
女学校に通う洋服屋の娘さんです。
自身も洋服を作るのが大好きで、人から「洋裁の天才」と言われるほどの腕前です。
ある日、湖都ちゃんは夢を見ます。
自分で作った白いドレスを着て円舞曲を踊っている夢です。
相手の男性は白い軍服を着ているのですが、顔はわからないまま目が覚めてしまいました。
そしてその日、衝撃的な出来事が起こります。
なんと遠縁の鬼堂院家の次男が結婚の申し込みをしてきたのです。
彼の名は鬼堂院将臣。
凛々しく美しい顔立ちをした海軍兵学校に通う青年です。しかも秀才。
世の全ての女性が憧れる男性に結婚を申し込まれて湖都ちゃんもトキメキますが、何故か心の中はちょっとモヤモヤします。
今日見た夢の相手は将臣さんだったのか…と、なにか釈然としません。
その夜、彼女は英国大使館で開催される舞踏会に出かけます。
自分で作った白いドレスを着て。
そこで彼女は運命の出会いを果たすのです。

妙齢になった女性は嫁ぎ、夫に追従するのが当時の一般的な規律であり習わしでした。
湖都ちゃんはお母さんを早くに亡くしてしまったといえど、銀座にお店を持つ裕福な家のお嬢さんです。
彼女もまたその慣習に従うことを周囲から強いられます。
けれど湖都ちゃんはそれをよしとしませんでした。
自分でドレスを作って売るのが夢だったからです。
裁縫は女性のたしなみの一つなので、上手に出来る分はよいけれど、デザイナーとして作って売るというのはこの時代においては異色でした。
しかも洋装です。
女、しかもまだ少女が自分でデザインした洋服を作って売るなんて出来るわけがないと義理の父親になる人からは笑われます。
そしてお決まり通りの「それよりも花嫁修業をしろ」という言葉も吐かれました。
そんな周囲の偏見の目に負けず、湖都ちゃんは夢のように美しいドレスを作っていきます。
才ある者には才ある者を呼び寄せるのでしょう。
彼女にドレスを作って欲しいという人たちが現れました。
しかも英国人たちが、です。
年齢や国を越えて彼女の作るドレスに人々が惹きつけられたのです。

湖都ちゃんが英国大使館の舞踏会で出会ったのはサジットという名の英国海軍将校でした。
彼はインド人とのハーフで、実は独立運動に加担するスパイだったのです。
パーティーの最中、銃で撃たれてしまった彼を湖都ちゃんは自宅に連れて帰り匿います。
そして二人は思い合うようになりました。
しかし湖都ちゃんは将臣さんと婚約したばかりです。
二人が結ばれることはないのです。
湖都ちゃんはサジットへの思いを絶ち、将臣さんとの未来へと目を向けるのですが、何故かサジットと邂逅してしまいます。
離れようとしても近づいてしまう二人。
あきらめたつもりでも神さまは二人を引き合わせます。
まさしくサジットは「運命の男性」。
しかし二人の距離が近づいていくのを止められないながらも、湖都ちゃんは将臣さんを振り切ることができないのです。
湖都ちゃん、サジット、将臣さん、三人の愛の行方はどうなるのでしょうか?

物語中、湖都ちゃんはキラキラ輝いていて本当に眩しかったです。
夢を持って生きている人は光輝き人を惹きつけます。
サジットや将臣さんが彼女に惹かれたのは当然でしょう。
ストーリー中、湖都ちゃんのドレスに惚れ込んだ英国人ダイアナから「あなたの才能は潰したくない、ドレスを作って」と言われたときに見せた蕩けるような笑顔や、
最終局面で自分で作ったドレスを着て毅然とした姿には目映い光が立ち込めていました。
湖都ちゃんはどんなときでも何処に行ってもドレスを作るのでしょう。
それもとびきりの。
「こんな時代だからこそドレスを作りたい」という彼女の言葉はまさに真っ直ぐな彼女自身、そして生き方を現しています。

物語冒頭からラストまで円舞曲がくるくると流れ続けるロマンチックな、それでいて力強い素晴らしい物語です。

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