娚の一生

著者:西炯子

 

 

 

「月刊フラワーズ」にて2008年9月号から2010年2月号まで連載され、大好評を博した西炯子さんの代表作品です。
スピンオフ作品も含めて、単行本は全4巻刊行され、2015年には映画化されました。

主人公は、堂園つぐみという名の三十路半ばの独身女性です。
物語は、その彼女の祖母の葬式から始まります。
つぐみは祖母・十和が亡くなる一ヶ月前から帰郷し、祖母宅に身を寄せていました。
大手電機メーカーで働き続けていたつぐみは、都会での生活と妻帯者との恋愛に疲れ、これからの人生を考えるために会社に休職届けを出して故郷へ戻ってきていたのです。
その祖母の葬式の次の日、一人の初老の男性が家にやって来ました。
男性はろくに挨拶もせず、家に上がり込み、祭壇で手を合わせた後、キッチンに座りこみます。
あまりにも慣れ親しんだ姿につぐみは戸惑い、男性に何者か尋ねました。
男性は海江田醇(かいえだじゅん)という名の大学で哲学を教えている者であると言います。
そして自分は十和から鍵をもらっているのでここに住むと主張し、離れで暮らし始めました。
奇妙な二人の同棲生活が始まりました。

九州南部の地(鹿児島県がモデル)を舞台に繰り広げられる、ほろ苦く、そして切ない大人のラブストーリーです。
その本作は、三十路半ばの女性と五十代初めの男性という、「中年」+「年の差」のカップルであったのにも関わらず、妙齢の女性雑誌に連載されて多くの読者に支持を受けました。
主人公のつぐみは高学歴の大企業に勤めるキャリアウーマンです。
頭が良くて仕事もできて美人、料理も裁縫も上手です。
つまりは何でもできるのです。
本人は気づいていないのかもしれませんが男性にもモテます。
世の女性が望むもののほとんどを手にしているわけです。
そんな彼女にも手に入れられないものがありました。
それは女性が最も望む「女性としての幸福」、つまり「結婚」でした。
彼女には恋人がいました。
しかしその人には妻がいました。
そんな恋人との関係に疲れて、故郷に戻ってきたのです。
このまま穏やかに故郷で一人で過ごそうと思っていた矢先に現れたクセのある風変わりな大学教授。
彼はつぐみのことを好きだと言いますが、彼女は経験が邪魔して素直になれません。
恋愛に傷つき疲れ果てていた彼女には彼を受け入れることは難しかったのです。
ましてや年の差も一回り以上ある上に、祖母・十和に恋をしていたというのですから。
それでも一緒に暮らしていくうちに様々な出来事を通して二人の距離は近づいていきます。

本作品は、恋愛に年齢は関係ない、ということを教えてくれました。
むしろそんなことを考えていたら恋愛などできないということも。
年齢を重ねれば生きていくのが上手になるわけではありません。
様々な経験が心に壁を作り、人との関わり方をますます難しくさせています。
傷つき傷つけあった、二度と繰り返したくない思い。
裏切られることへの恐怖。
それがつぐみを臆病にさせています。
そんな何でもできる女性が何故?、と疑問に思いますが、その答えは本書の中に描かれています。
「何でもできるから恋愛で不幸になることによってバランスを保っている」
「何でも一人でできる女性のしんどさを受けきれる男性はなかなかいない」
「何でも持っているから人から与えられるものを大事にできない」
「大切にしているものは自分が大切だと思っていたものだった」と。
これは限りなく不幸なことなのではないでしょうか。
頭の良い女性は考えすぎます。つぐみも例にもれず。

名場面が多い作品ですが、最たるはスピンオフであった最終巻のつぐみの結婚式でしょう。
物語初回と同じく親戚一同が集まって大にぎわい。
町中を人々に囲まれて結婚衣装をまとって歩く二人の姿には感動して涙がこぼれました。

静穏な風景と大人のロマンスが絶妙なハーモニーとなって奏でる素敵なお話です。

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