タランチュラのくちづけ

著者:高階良子

 

 

 

1976年に講談社から初刊行された高階良子さんの作品です。原作者は佐山哲郎さん。

物語の舞台はアマゾンの密林地帯。
ブラジルのカーニバルの夜からストーリーは開幕します。
主人公は蘭という名の16歳の少女です。
彼女は、仕事で南米の奥地に赴くことになった兄に、無理にせがんで一緒に連れて来てもらいました。
パーティーは男性のみで構成されている上、向かう先は未開の地です。
蘭は男装して一行に潜り込みました。
危険なことこの上ない地に、何故そこまでして彼女は来ることを願ったのでしょうか。
それは、アマゾンの奥地から自分を呼ぶ声が聞こえたからです。
蘭は、その声に従ってやって来たものの、カーニバルの最中に、兄とはぐれてしまい、怪しげで恐ろしげな一味に襲いかかられてしまいます。
ですが、一人の麗人が現れ、蘭はその人に助けられます。
そしてその彼は、蘭の生まれたときから胸にある大きな蜘蛛の形をした痣に口づけして去って行きました。
わけがわからぬまま、蘭を加えた一行は、アマゾンの奥地へと船で出発します。
行く先はエルドラドと言われている「タランチュラ」と称する幻の地です。
筆頭は、南米アマゾンの研究者の権威・影山博士ですが、何故かブラジル陸軍が同行して乗船しています。
名目は護衛ですが、なにやら胡散臭げです。
それもそのはず、彼らはタランチュラの地にあるダイアモンドを狙っていたのですから。
死と隣り合わせの剣呑な雰囲気が漂う船の上で、果たして蘭は自分を呼び寄せる声のもとまで辿り着くことができるのでしょうか。

「タランチュラ」は一般的には獰猛な毒蜘蛛として知られています。
蛇と同様に気味悪がられながらも、天性の毒婦を連想させるグロテスクな美麗さの姿態が蠱惑的で人間の興味を惹きつけています。
また実際に強烈な毒を持っており、咬まれたらほぼ死に至ると言われています。
その恐るべき毒蜘蛛が本書にはたくさん登場します。
タイトルは「タランチュラのくちづけ」。
この物語の主題でもあり、大きな伏線にもなっています。
主人公の蘭には大きな秘密がありました。
それも二重三重に入り組んでいます。
しかし本人自身は何もわかっていません。
鍵は彼女の胸のタランチュラの形をした痣です。
それはストーリーが進んでいくうちに読み手とともに解明されていきます。
何故、彼女がはるか遠き日本からアマゾンへ呼ばれたのか。
その事実が驚愕の真実とともに明かされます。

文明が進化しても、知られざる地は存在します。
人間が足を踏入れてはならぬ聖域が。
本書の地「タランチュラ」もそうです。
かの地は、大自然が結界でした。
探険隊はその地に辿り着く前にその脅威に晒されます。
視界は常に霧に煙っていて遮られ、その周囲に蛇やジャガー、ワニ、が当たり前に存在して彼らを狙い続けました。
また空飛ぶピラニアと呼ばれる肉を喰らうハエの集団も。
想像を絶する世界です。
秘境への冒険は、物語の中だけで楽しむべきですね。
本書は十二分に満足させてくれます。

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