王室スキャンダル騒動

著者:遠藤淑子

 

 

 

遠藤淑子さんは大好きな漫画家です。
少女時代、彼女の作品を夢中になって読みました。
作品は多数出版されていますが、最たるはやはり「エヴァンジェリン姫シリーズ」でしょう。
本作シリーズは読み切り形式で昭和60年〜平成4年までの間に白泉社が刊行する漫画雑誌に掲載され続けました。
それらの作品をまとめて出版したのが平成14年に白泉社から刊行された文庫本です。
付録も含めて、全15話のストーリーが収録されています。
・大さわぎのウェディングマーチ
・波瀾ぶくみのイヴ
・王室スキャンダル騒動
・お姫様のワルツ
・王女様とたわし
・もしかしてSF
・4月の魚
・南から来たインディラ
・アルト…
・魔女の家
・星はなんでも知っている
・夢見る佳人
・故郷の人々
・巻末劇場
・エッシェンシュタイン通り

欧州の小さな国エッシェンシュタイン公国の王女エヴァンジェリン姫が主人公の物語です。
エッシェンシュタイン公国はもちろん架空の国です。
山岳地帯の自然豊かな地で、どうやらお隣はスイスのようです。

物語の始まりは姫の結婚騒ぎから。
エッシェンシュタイン公国は危機に瀕してました。
それは国庫が赤字!だったからです。
豊かな自然に囲まれているといえど、目ぼしい産業がないため、国の財政は逼迫していたのです。
姫は自国の非常事態を回避すべく、自ら自分が他国の(それも金持ち)の王子と政略結婚することを申し出ます。
重臣たちは必死で相手を探し、そして見つ出しました。
しかしそのお相手の王子は結婚式二週間前に交通事故で亡くなってしまったのです。
慌てた姫たちはせめて式だけは挙げようと、王子の身代わりにすべく旅行者のオーソンを城へと拉致してきたのですが…!?

しょっぱなからドタバタと慌ただしくギャグをかましながら、物語は展開していきます。
そのテンションは最終話まで変わりません。
主人公のエヴァンジェリン姫は破天荒な性格の持ち主で、重臣や周囲の人間たちは彼女に振り回されています。
でも実は姫はかなり懐の深い持ち主。
どんな人間も見捨てることはしません。
まさに一国の主に相応しい人物なのです。
重臣たちも姫が起こす面倒事を実は楽しんでいるのもわかります。
登場人物の一人が語っています。
「この国が幸福なのはきっと姫が幸福なのだからでしょうね」、と。

どのお話も秀逸ですが、一番好きなのは「南から来たインディラ」です。
重臣たちがピクニックをしようとお弁当を持って、山にいる姫の前に現れた場面は心底可笑しかったです。
その直前が実にシリアスなコマだった分、余計に。
また「犠牲がなけりゃ守れない立場なんかやめてしまえ」という姫の科白は胸に響きました。

ウェットに富んだ笑いを誘うコメディとしみじみとした人情味の広がる味わいある本作シリーズは、多くの読者に愛されて大好評を博しました。
笑いあり、涙あり、そして最後には登場人物たちも読み手も幸せになります。
すべての人が望む「平和」の形がこの国なのでしょう。

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