ナチュラル

著者:麻生いずみ

 

 

 

名作・新体操漫画「光の伝説」の作者の作品です。
本作「ナチュラル」は、その「光の伝説」の連載終了後に、1989年〜1991年にかけて「週間マーガレット」にて長期連載され、単行本は全9巻、文庫本では全4巻刊行されました。

主人公は中等部卒業間近の宮原直(みやはら・すなお)。
世界トップモデルの峰京子の娘です。
彼女は、3歳のときに母親である峰京子に置き去りされて以来、父親と二人暮らしを続けていました。
幼い頃から母親がいない環境で育ったのにも関わらず、直はその名のごとく真っ直ぐに健全に成長しました。
また彼女は名門進学校で首位を取り続けた成績抜群の優等生でもありました。
その直が、胸のうちにある母親の面影を消すことができず、モデルになる道を歩む決意をするところから物語は始まります。
背は高く、モデルになる条件は兼ね備えているのですが、外見は冴えないガリ勉少女が、華やかで未知の世界に踏み込んだのです。
しかも母親は誰もが知るトップモデルです。
比較されてしまうのは当然で、さらにはその名を利用しようとする人間たちも悪しき触手を伸ばしてきます。
モデルになるための方法も知らなかった直は、身一つでその世界で這い上がって行かなければなりません。
それはもう読み手が苦しくなるくらいの辛い道行きでした。
果たして直は、母を越えるモデルになることができるのでしょうか。

「スター」を夢見る少女のサクセスストーリーは多数存在します。
本作「ナチュラル」もトップモデルになることを志す少女が主役のお話しなのですが、その内容は少女漫画とは思えないほどの苛烈さです。
戦いに次ぐ、戦いが休むことなく繰り返し描かれています。
“美”を競いあうのですから、それはもう凄まじき個と個のぶつかりあいです。
そうしてより美しく強い者が残っていく、まさしく弱肉強食の世界が繰り広げられています。
雑誌モデルの応募から始めた直は、我の強いライバルモデルたちと競いながら際立った表現力を持つ魅力的な存在へと成長していきます。
それでも母親は手の届かない遠い場所にいました。
しかし直には母親の持っている以上のパワーがあったのです。
それはマイナスをプラスに変える力、逆境を覆す力、そして敵だった人間を味方にする力でした。
“女の世界”にはありがちの足の引っ張り合いは直には通じません。
ライバルのモデルの力を最大に発揮させた上で打ち負かしてしまうのですから、相手方もスッキリとした気持ちで降参してしまうのです。
更にはそのライバルたちの個性をも自身の内に取り込んで活かし、母親へと近づいていきます。

煌びやかな世界が舞台なだけあって、本書には見所はたくさんあります。
個人的に気にいってるのは、キャンペーンモデルオーディションの箇所です。
直のライバルの一人が、人間感情の一つである“喜”を表現する審査で、サンバを踊って観客を湧かせた場面は滅茶苦茶格好よかったです。
そしてその後、他のライバルに真剣さが足りないと渇を入れた姿にも痺れました。
それを見ていた直の、「生きる」ことに真剣な人はきれいだ、という独白は胸に響きました。
そして直がスカーレット・オハラに扮してプロモーションビデオを撮影する場面は、何度も何度も読み返しました。
直が初めてスカーレット風にメイクアップして現れたシーンは、あまりの強烈な鮮烈さに他の登場人物同様に息を呑むほどの衝撃を受けました。
「風と共に去りぬ」ファンであれば必ず驚喜することでしょう。

「自分」の望む「自分」を創りあげていくには、生きることに対して真摯な姿勢で向きあわなければなりません。
その中で直面する辛さや苦しさ、そして悲しさから逃げ出さないこと、一段ずつ階段をのぼるように乗り越えていくこと、それが人生を素晴らしくさせることに繋がるのだと教えてくれる作品です。

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ナチュラル (全9巻)

 

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