地獄でメスがひかる

著者:高階良子

 

 

 

「地獄でメスがひかる」は高階良子さんの代表作品です。
高階良子作品といって真っ先に頭に思い浮かぶのが本作でしょう。
タイトルからして強烈で際どく、そして内容も同様に酸鼻を極めています。
その本作は1976年に講談社から初刊行されました。

主人公の名前は弥生ひろみ。
背中にこぶのある醜い姿をした少女です。
彼女は弥生家の娘ですが、父親が外の女に生ませた子どもです。
実の母親は出奔してしまいました。
他に異母兄姉がいますが、出自に加えて怪物のような姿をしていることから家族全員に疎まれています。
ひろみは、家族に嫌われないように気を遣うのですが、それは全て逆効果となり、かえって彼らの神経を逆なでしてしまっています。
そしてついに「お前など生まれてこない方が良かったんだ」という言葉を投げつけられ、傷ついたひろみは、書き置きを残して家を出ました。
そして入水自殺を図りますが、ある一人の男性に助けられます。
その男性の名は巌俊明。
叔父の運営する医院の医師でした。
ひろみの運命は、彼に命を救われたことにより、大きく変わります。

女に生まれたからには誰だって美しくありたいと願うのは当然でしょう。
それが乖離されている姿であればあるほど。
己の不器量さゆえに命を絶ったひろみは絶世の美女として生まれ変わります。
天才医師・巌俊明の手によって。
彼はひろみの脳を別の身体に移植したのです。
しかもその身体は人の死体を継ぎ合わせたものでした。
俊明は死体から美しい人体を作り出したのです。
そこへ生きた人間の脳を移植。狂ってますね。
しかし手術は成功します。
この世のものとは思えぬほどの美貌となったひろみは「ビーナス」とまで称されます。
素性を隠して、かつての家族たちとも対面しますが、誰もがあのひろみとは気づきません。
ひろみの願いもあったとはいえ、俊明は何故このような無体な手術をしたのでしょうか。
それは彼が野望を持っていたからです。
天才と言われながら、過去の医療ミスにより医師免許を剥奪され、医学会を追放されてしまったため、飛躍的な研究を成し遂げることで見返そうとしたのです。
(免許剥奪されたことは隠して診療していました)
そのためなら彼は人道を外れた行いも平気だったのです。
しかし技術的には成功したものの、ひろみは心のバランスを崩していきます。
中身は変わらないのに、周囲の自分への態度がまったく違うため、そのギャップに苦しむようになったのです。
また生まれてはじめて優しくしてくれた人・俊明が、そうしてくれていたのは単に自分が実験材料であったからと知って深い悲しみに陥ってしまうのです。
やはり自分は人間扱いされなかったのだのだと。
ひろみが壊れていきました。

本編の主人公・ひろみはその醜い姿ゆえんに周囲から煙たがられていました。
自分は“醜い”から愛されないのだと思い込みます。
しかし姿が変わり、求めていたのは自身に向けられる“愛”ということに気づきます。
また俊明もモルモットとしてではなく、ひろみ自身を愛していたことを悟ります。
始まり同様衝撃的な結末を迎えますが、何故か憧憬を感じます。
狂気を孕みながらも、人間の剥き出しの魂の本質が描かれているからでしょう。
それが高階作品の人気がある理由です。

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