精霊の森

著者:高階良子

 

 

 

アマゾン川上流域の密林が舞台の物語です。
野生動物を飼い慣らすのを生業としていた辻子郎は、ブラジル屈指の富豪カルロスからある依頼をされました。
それは十二年前にアマゾンの密林で行方不明になった孫娘アルミラの教育をしろというものでした。
飛行機の墜落事故で亡くなったと思っていたアルミラは、なんとジャングルの中で生きていたのです。
アルミラは当時二歳。
そのまま野生動物のように育った彼女は獣そのものだとのことです。
大牧場主になることが夢だった子郎は、破格の報酬条件から依頼を受け入れます。
アルミラは、動物を捕獲するかのごとく森で捕らえられ、檻に入れられて連れて来られました。
そのアルミラを子郎は手なずけようとしますが、彼女は言語を解さず、奇声を上げて暴れます。
しかも食事を与えても食べようとしません。
それが二週間続き、ついにアルミラは熱を出して倒れました。
そんな彼女を子郎は手厚く介護します。
アルミラは子郎の真心が伝わったのか、体が回復すると、心を開き、子郎の言うことを聞くようになりました。
驚いたことに、辿々しいながらも名前も言えるようになったのです。
そして少しずつ人間の生活に順応していき、アルミラは見違えるほど美しい少女へと変貌しました。
しかし腹黒いカルロスの部下たちは黙ってはいません。
アルミラを無理矢理連れ去って行こうとします。
しかし森に住むインディヘナがそれを許しませんでした。
アルミラは間一髪のところで彼らに助けられます。 

大自然の驚異をアルミラを通して知った子郎は、彼女をカルロスの元へは送らないことを決めました。
契約を破棄し、インディへナ保護官になることをカルロスに告げます。
そのとき森に帰ったはずのアルミラが馬に背負われてボロボロの状態で現れました。
自ら祖父カルロスの元へやって来たのです。
カルロスは半月後の自分の誕生日パーティーまでにアルミラを人前に出られるように教育をしろと子郎に命じました。
子郎は言われた通りに、再びアルミラを教育し始めます。
言語を解するようになったとはいえ、文明世界と切り離されて育ったアルミラです。
それは見ている子郎も辛くなるほどですが、アルミラは「森の精霊が望んでいるから」と言って諦めません。
アルミラには隠された目的があるようです。

大好きな作品です。
初めて読んだのは少女時代で、単独の単行本として刊行されたときでした。
子どもの頃から自然を愛し、密林のジャングルやサバンナに惹かれていた自分は、アルミラに憧憬を抱きました。
文明から隔絶された森の中で、自然や動物たちに囲まれて育った少女。
その特異な自然美や誇りの高さに強く魅了されたのです。
野獣のようだったアルミラが人へと変貌していく様子には目が離せませんでした。
特にレディとしての教育を受けた後のアルミラの精霊のごとき美しさには息を呑みました。
まるで密林に咲き誇る熱帯の花がそのまま人の形となって現れたかのようで。
汚れた外界から離れた世界で生きてきたからこその“美”でしょう。
人としての知識と教養を持ったアルミラは、森の精霊に愛されるだけだった少女から、森を守る女王へと成長していきます。
アルミラの愛する森は神域ともいえる神秘の地です。
霧に煙る地図にはない場所・ダイアモンドが散らばる谷も物語中に描かれていますが、迫力満点です。
恐ろしく震え上がってしまう光景がそこにあります。
それでも惹きつけられてしまうのは、人間も自然の一部だからでしょうか。
大自然への回帰を想起させる雄大かつロマンチックなお話です。

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精霊の森 著者:高階良子

 

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