あなたに花を捧げましょう

著者:大海とむ

 

 

 

主人公の名前は畑中セリ。
有数の資産家のお嬢さんです。
性格は快活で気風のいい姉御肌。
物語はそんな彼女が22歳の誕生日にたくさんの花をプレゼントされたところから始まります。
贈り主は古御堂柚木くんという名の同い年の男性です。
彼は互いの両親が決めた許嫁でした。
花のように美しい青年ですが、セリは彼と仲が悪く、結婚を拒んでいます。
気が強く、何よりも自分の意思に反することを強制されることを嫌う彼女なのでこれは当然の反応と言えましょう。
それでも周囲に押されて流されるまま、古御堂本家参りに連れ出されてしまいました。
そこでセリは知るのです。古御堂の隠された秘密を。
そしてそれがセリと柚木が仲違いした原因になっていたことも。

大海とむさんの長編作品です。
本作は2010年1月から2011年8月まで月間雑誌「プチコミック」で連載され、単行本は4巻まで刊行されました。
大海さん描く物語の控えめな女性が主人公が多い中で、セリは毛色が変わっているかもしれません。
「禁断の恋で行こう」の緋佐子ちゃんとは全くタイプが違います。でも芯が強いのは同じです。
何より愛する男性にともに一途です。

柚木くんは悲しい宿命を背負っていました。
古御堂の当主は短命なのです。
それは「呪い」をかけられているから―。
けれど柚木くんは自分の意思でその宿命を背負い、そしてセリを自分の伴侶と決めたのです。
柚木に対する想いを自覚したセリは、求婚を受け入れます。
そして古御堂にかけられた「呪い」の正体を二人で調査し始めました。
幼馴染の少年が素敵な男性へと成長して、自分でも気づかないうちに恋してしまった、というのは少女漫画ではよくあるパターンです。
ストーリーが進むに連れ、遠かった二人が少しずつ近づいていき、夫婦らしくなっていきます。

物語の骨格となる「呪い」は手強い敵です。
何百年もの間、古御堂を恨み続け、そして己れを祓おうとした修験者たちも殺めてきたほどの強烈な負の存在です。
しかし「呪い」の正体を知った時、我々はその恐ろしさに震えあがりながらも哀しみで胸が裂かれそうにもなります。
まこと女のうらみつらみは恐ろしく怖く悲しく、そしてあわれ、です。
それは六畳の御息所のごとくに。
最終局面、時を超えて明らかになる真実に読み手は愕然とします。

大海とむさんの画はうっとりするほどの芸術的な美しさです。
一コマ一コマがまるで完成された絵画で上質で上品。
そのため画に見惚れて、何度もストーリーの骨子を忘れ、読み返すハメになってしまいました。
特にラヴシーンの美しさは壮絶です。

またセリはお金持ちのお嬢さんらしく、とってもお洒落。
いつも違う服をセンスよく着こなして楽しませてくれます。
それも髪型やアクセサリーも上手く合わせて。
性格からかどれも現代的なファッションで、いわゆる新装のお嬢様らしい着物やフリルのついた白いブラウス、ひざ丈スカート姿はありません。
これはもう一人のお嬢様、真優さんと対比させるためでしょう。
各話毎の扉絵も素晴らしいです。
大海さんのイラスト集出してくれないかな〜。

話は逸れてしまいましたが、タイトルにもある「花」。
「花」とは「想い」です。
哀しい「花」もありましたが、咲き続ければきっと誰かが気付いてくれます。
「あなたの中に溢れるほどの花がありますように―」と作者が最後に主人公とシンクロさせて語った「想い」。
その想い、花がこぼれんばかりの香気を放ちながら全身を包み込んでくれる素敵な作品です。


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