フロイト1/2

著者:川原泉

 

 

川原泉氏ならではのハートフルな作品です。

タイトルの「フロイト」とは、あの精神分析学の権威フロイト博士のことです。

その彼がこの物語の重鎮として登場します。でも主役じゃありません。

主人公は篠崎梨生ちゃんという少女と瀬奈弓彦くんという青年です。

物語は二人が出会ったところから始まります。場所は小田原です。

弓彦くんが登山帰りに寄ったそこで、一人でいた梨生ちゃんの姿を見かけます。

優しく声をかける弓彦くん。と、二人の目の前に提灯売りの姿が入ってきました。

変なダジャレを飛ばす怪しいオジさんです。そのオジさんが自分で作ったペアになっている提灯を買わないか、と言ってきました。

なんと2つで10円だそう。お買い得と思っても、当時まだ8歳だった梨生ちゃんが持っていたのはその半分の5円でした。

欲しがる梨生ちゃんを哀れんだ弓彦くんは、自分が5円出すから、半分ずつ寄こせとオジさんに言います。

オジさんは妙な顔をしながらも、まっ、いっか、というような風体で、二人に一個ずつ提灯を渡し、姿を消しました。

仲良く提灯を半分ずっこにした二人はそれでバイバイ・・・。そして10年の月日が流れます。

梨生ちゃんは18歳になりました。短大の入学も決まっていて、高校はあとは卒業すればいいだけです。

だからファミコン好きのいとこのすすめで、ゲームソフトの会社でアルバイトをすることになりました。

そして行ってみるとびっくり!!なんとそこには、10年前に提灯を半分ずつ分け合ったあの弓彦くんがいたのです。

彼はその会社の社長さんでした。そして10年ぶりに邂逅した二人は何故かその日から同じ夢を見はじめたのです・・・!

と、夢を共有し合う二人のお話です。

主役の梨生ちゃんは不幸な境遇にいる女の子ですが、川原氏らしいキャラで人を疑うことを知らないお人よしさんです。

対する弓彦くんは、度重なる不遇のせいで心が拗ねてしまった青年です。ホントは心優しい人なんですけどね。

10年前とは違って、そっけない弓彦くんに梨生ちゃんはちょっと悲しい思いをします。

夢の中では昔の優しいままなのに・・・。

世知辛い世の中、正直ものは馬鹿を見る・・・。

誰だって人を疑わず心清らかに生きたいものですが、現実はシビア。

知らないうちに心が棘だらけになってしまった弓彦くんのような方は多いのではないでしょうか?

でも川原氏は教えてくれます。最後に勝つのは”心の善良さ”だということを。

主人公の梨生ちゃんはあるがまますべてを受け入れる女の子です。

それは10年前と変わらず、そしてこれからも変わることなく――。

そんな梨生ちゃんと接していくうちに、弓彦くんは昔の自分を取り戻すのです・・・。

心に棘が刺さっているそこのあなた、この本を読んで抜いてください・・・。

 

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フロイト1/2 全1巻(白泉社文庫)

 

 

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