DRUGGIST ドラギスト

著者:冬木るりか

 

 

 

2000年〜2003年にかけて月間雑誌プリンセスGOLDで連載された冬木るりかさんの長編作品です。
単行本は全7巻刊行されました。

めちゃくちゃ可愛い女の子が登場します。
名前は釈菜(しゃな)ちゃん。
お人形のように愛らしい七歳の少女ですが、生まれつき言葉を話すことができません。
そして何と彼女の背には飛べない翼があるのです。
そう、釈菜ちゃんは天使なのです!
その釈菜ちゃんは、本編の主人公である高宮青樹という名の二十代後半の青年と一緒に東京郊外で暮らしています。
青樹は薬剤師で自分で薬局を開いています。
釈菜ちゃんのことは、姪と言っていますが、それは明らかに嘘で何か隠している様子です。
そして彼は表向きは薬剤師ですが、実は錬金術師(アルケミスト=霊薬を創る者)だったのです。しかもすご腕の。
しかし青樹は誰にでも霊薬を創るわけではありません。
釈菜ちゃんが翼を見せたときに創るのです。
釈菜ちゃんは、本当に相手が霊薬を必要としているとき、霊薬によって救わなければならないときに翼を見せるからです。
そんな不思議な天使の少女・釈菜ちゃんは、一体何者なのでしょうか。

物語は一話完結式で進んでいきます。
霊薬を欲しがる、あるいは必要とする人物たちが各話毎に登場し、そして釈菜は天啓のように翼を見せて青樹に創らせていきます。
青樹の創る薬は完璧ですが、扱うのは生身の人間なので、当然トラブルも生じます。
万能薬を呑んでも、最後に頼るのは己自身の力だということが各ストーリーに強く織り込まれています。

釈菜が普通の少女ではないことはすぐにわかります。
その彼女の正体は物語後半で明らかにされ、全貌は終局で判明します。
青樹は錬金術師を養成する「アル・ケメイア」という特殊な学園で学び育ちました。
もう一人の主人公とも言える同い年の従兄弟・彩牙(さいが)と共に。
青樹の父と彩牙の母は双子の兄妹でした。
それも天才と呼ばれるほどの。
真の錬金術師には神の啓示があると言われています。
青樹の父は15歳のときに受けました。
そして青樹と彩牙も14歳のときに同時に受けます。
二人のいる部屋の中に突然天使が現れ、「己の心のままに進め」と告げたのです。
錬金術に興味を持てなかった青樹はこれは彩牙への啓示と思いますが、彩牙は納得しません。
青樹が天性の錬金術師の才を持っているのを知っていたからです。
それが心のしこりとなって、彼は「天使」のホムンクルスを創る研究を始めました。
このときの啓示が誰へのものだったか知るために。
彩牙は釈菜の正体に、おおよそ見当をつけているものの、天使であることはわかっていません。
彼には何故か釈菜の翼が見えないからです。
天使の研究に躍起になっている彼に、釈菜がその天使だと知れたらモルモット扱いされてしまうと懸念した青樹はひた隠します。
彩牙の創っている天使は、ほぼ完成しているのですが、何故か目を覚ましません。
決定的な何かが足りないのです。
それを知るために、彩牙は青樹と取引をして研究を手伝わせます。

彩牙はD(ダフネ)と呼ばれる富裕層をターゲットにした霊薬作りの組織に属しています。
そのDの表向きの顔は製薬会社で、いくつかの大企業がスポンサーになっています。
青樹たちが学んだアル・ケメイアはアルケミストを養成する学校なので、当然Dとは癒着しています。
富裕層の、ごく限られた一部の人間だけが幸福になるための組織を嫌い、青樹は外の世界に飛び出しました。
彩牙はホムンクルスを創るためにDに残りました。
同時に啓示を受けた二人の道は分かたれましたが、運命なのか、はたまた天使の導きか、時を経て互いの目的のために手を取り合うことになります。

全30話の長い物語なので、それなりの数のキャラクターが登場します。
主人公の青樹はおっとりしていますが(しかもかなりのお人好し)、脇役はかなり個性の強い者たちです。
物語中途に登場するDに対抗するC(カオス)という組織に属する人物たちは特に強烈です。
敵役なため、当初は不快な感じを免れませんが、読み進めるうちに好感度がアップしていきます。
Cの重要人物の一人、絵麻はかなりぶっとんだ性格の持ち主ですが、裏表がなく、自分の感情に素直で一途な強い女性です。
味方であれば、かなり心強い存在でしょう。
何より見ていて面白いです。
登場回数は少なかったけれど(それも回顧シーンのみ)、彩牙の母親の彩音さんもかなりヘビーでした。
妄執にとらわれた狂気を孕んだ女性です。
こんな女性が母親だったら、そりゃあ彩牙の心もねじくれてしまうでしょう。

霊薬は人間の欲望を叶える神の領域に属するもの。
だからこそ真に救いを求める者、それでしか救われない者にしか与えてはならないのです。
その判断を見誤らない、誘惑に負けない者こそが、神からその領域に入ることを許されるのです。
周囲の権謀術数に巻き込まれながらも、青樹は自分の信念を最後まで曲げませんでした。
彼こそ真のアルケミスト、人間のためのドラギスト(薬剤師)なのです。
物語中、青樹はこう語っています。
「感情っていうのはそれこそ個人の財産なんだ。つらかったり苦しかったりしてもね」。
彼の核ともいえる印象的な科白です。

他の冬木さん作品とは異なり、壮絶なバトルシーンはほとんどありませんが(まあバトル漫画ではないので)、冒頭からラストまで読み手の心をひきつけて離さない魅惑的なお話しです。
美男美女もたくさん登場するので、画面も華やかで目も潤してくれます。
とにかく釈菜ちゃんが可愛い。可愛すぎます。
いろんな漫画でたくさんの天使を見てきましたが、彼女の愛らしさは飛び抜けています。
釈菜ちゃんを見るだけでも価値ある本です。

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DRUGGIST(全7巻)

 

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