悪魔は眠らない

著者:柿崎普美

 

 

 

「悪魔は眠らない」は柿崎普美さんの代表作品です。
昭和56年に漫画雑誌「週間マーガレット」で長期連載され、単行本は全三巻刊行されました。
(文庫本は平成13年に全二巻で刊行)

タイトル通り「悪魔」が登場するオカルトホラー漫画です。
ストーリー全体に渡って、血が飛び散っています。

主人公・七瀬一美(ななせひとみ)は私立浜京高校に通うごく普通の女子高生です。
物語は、彼女の生活が一変する出来事が起こるところから始まります。
いつもと同じ朝、一美は教室の扉を開けると、何故か恐ろしい光景が広がっていました。
そこは真っ暗な冷たい世界で、実体のない無数の手やどろどろに溶けた人間たちが蠢いていました。
そいつらが、一美の体に絡みついてきました。
と、そのときです。
一人の美しい女性が現れ、一美を抱きあげてその世界から現実に連れ戻したのです。
目の前には、いつも通りの教室の風景がありました。
一美は、何が起こったのかわからないまま戸口に立っていると、担任の教師が一人の転校生を連れてやって来ました。
彼の名は天乃翔(あまのしょう)。
冴え冴えとした雰囲気をまとったエキゾチックな美青年です。
一美は驚きました。
何故なら彼は、彼女が幼い頃より度々見ていた幽霊にソックリだったからです。
この日から恐るべき惨劇が始まりました。

物語冒頭で一美を救った美しい女性の名はマリア。
実は彼女は悪魔でした。
美しい姿と聖なる名前にそぐわずやることが陰惨を極めています。
まあ、悪魔ですから当然ですね。
本作では、マリアは、人間が死んだ後、霊界で肉体から分離されて浄化されるはずだった人間の邪心の化身という設定です。
そいつは、赤子の状態で一度死んだ一美の魂に潜り込み、ともに霊界から抜け出しました。
そして時を経て、一美の内から眠りを覚ましたのです。
マリアは人の魂が何よりの好物。
魂を喰らうたびに力を増していきます。
まだ完全にのっとっていないながらも、一美の体を通してマリアは次々に惨たらしく人を殺していきます。
自称エクソシストを名乗る翔がそれを阻むのですが、マリアの力は強く、ついに一美は体をのっとられてしまいました。

人の恐怖や邪念を糧とする悪魔のすることですから、それはもうえげつないです。
そこに目的などありません。
ただ人間を痛めつけて、オモチャにして遊ぶのが面白いだけなのです。
それも極限まで苦しがらせて怖がらせて。
まさに“悪魔”です。
目を覆いたくなるような残虐なシーンが多いですが、続きがどうしても気になり、最後まで読みきってしまいます。

ことは単純な“悪魔”対“正義”ではありません。
マリアに対抗できるのは、唯一天乃翔だけなのですが、彼の正体も不明です。
翔は怪我をしてもすぐに治る不死身な体であり、マリアも彼のことを熟知している様子です。
その彼が命がけで一美をマリアから守ろうとします。
そんな彼を一美は次第に愛するようになっていきました。

物語の読みどころは、随所の惨殺シーンでしょうか。
描写が少女漫画とは思えないほど苛烈で、ドキドキハラハラし通しです。
また次にマリアが何をしでかすのかも気になってそれにも常にドギマギでした。
クライマックスは、マリアと翔の最終対決です。
全貌は語られていませんが、二人の力はどうやら互角、そして同じもののようです。
その力がぶつかり合う様相には、圧倒されて、興奮して目が離せなくなるほどでした。
(一美の肉体を守るために、翔は今まですべての力を出せなかったのです)
そして、何の力もなかった一美は、翔を愛したことにより、悪魔を追い払うほどの強い気を得ました。
“悪”に対抗する最強の力は愛なのでしょう。
誰かを守りたい、という思いから“愛”は生まれるのですから。

翔の正体は、最終局面で明らかにされます。
彼の悲しい過去や、一美だけを一途に愛し守り続けた思いを知って、切なさで胸が痛くなりました。
沈痛な終末ですが、光は差し込みます。

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悪魔は眠らない (全3巻)

 

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