バシリスの娘

著者:さいとうちほ

 

 

 

一人の女性の波乱万丈に満ちた生涯を描いた作品です・・・。

だから漫画というよりは、大河小説のような趣があります。

主人公は和泉朱夏ちゃんという22歳の別嬪さんな女性です。

でも、物語冒頭にはすぐに登場してきません。

始まりを紡ぐのは彼女の曾祖母でもあるもみじさんです。

もみじさんは子爵家の馬番で、乗馬がとてもお上手なお嬢さんでした。

また彼女も美人さんです。(と、いうよりは愛らしい顔立ちをしています)

そのもみじさんは身分違いなのにもかかわらず、その子爵家の甥っ子さんと恋に落ちてしまいます。

ですが、その甥っ子さんは哀れ、落馬して死んでしまうのです。

お腹に自分の子を宿したもみじさんを残して・・・。

その後、もみじさんが悲惨な人生を送ったというのは自然と推し量られるというもの。

そしてまた生まれた子供もその子もまた薄幸でありました。不幸は続くものです――。

と、舞台は現代の東京へ――。

ここでもみじさんの子供の子供の子供である本編の主役の朱夏ちゃんがようやっと場します。

彼女もまたまた不遇に見舞われた女性でした。

早くに両親を亡くしてしまった彼女は、年老いた祖母(もみじさんの孫)と二人きりの貧しい生活を送ることを余儀なくされていました。

それもただの貧乏ではありません。借金の取立てに追われる日々を送るくらいの赤貧極貧さです。

誰も助けてなんてくれません。わずか14歳の朱夏ちゃんは愛人として男に囲われる生活をするようになってしまったのです。

いつの時代のどこの話だ?という疑問が沸いてきますが、そうするとストーリーが展開していかないので、それはおいといて・・・。

彼女の登場時には、そんな不幸なエピソードは一切語られていません。

ですから読者は最初彼女のことを、野心を秘めたしたたかな嫌な女と思ったのではないでしょうか?

ところがどっこい。朱夏ちゃんはとてもとても純粋な人だったのです。

彼女が身を任せた男は名のある彫刻家でした。

朱夏ちゃんはその彼に囲われながらも、自分を見失うことをせず、なんと己の才能を発揮しだしていくのです。

彼女の才能――それは彫刻でした。彼女は次第にその名のある彫刻家を凌ぐ素晴らしい作品を創るようになっていったのです。

祖母やもみじさんの不幸を知っていた彼女が、この才を武器に陽の当たる場所へ出ることを望むようになるのは当然のこと。

ですが世の中そう簡単に上手くいきません。才能はあっても、名を知られずに終わってしまう人の方が多いのが現実です。

まして何の後ろ盾もない22歳の別嬪な朱夏ちゃんは、悪意を持った世間の格好の餌食でしかありません。

また彫刻家は彼女を離そうとしないうえにアルコール中毒ときています。

果たして彼女は彫刻家として確立することができるのでしょうか・・・?

と、かなり泥臭いお話なのですが、画は流麗でロマンチックなので、陰気な感じは全くありません。

朱夏ちゃんは強い女性です。ホントにホントに強い女性です。

14歳で男に身を任せながら、決してそれに寄りかからず、自分の道を切り開いていったくらいですから。

また彼女はアルコール中毒になってしまった男も見事に立ち直らせもしました。

そして周囲で蠢く陰謀にも、とうとう屈しなかったのです・・・!

そんな物語は、もちろん幸福に包まれて終了します(ちょっと悲しい部分もありますが)。

朱夏ちゃんはほんとーに頑張りました。頑張って頑張りぬきました。

物語の終末で祖母が「胸はっていいんだよ!」と言ったとき、思わず「うんうん」とうなずいてしまうくらいです。

ですから本書を読んで、ぜひとも彼女に拍手を送ってほしくあるのです・・・。

 

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