ART POWER
Part.7
女とオウム ギュスターヴ・クールベ
ギュスターヴ・クールベの絵を初めて観たのは、17歳のときだった。
横浜博覧会において開催された「メトロポリタン美術館展」においてである。
美しい風景画だった。
その後、美術館巡りをするようになり、彼の作品を多数目にする機会に恵まれた。
どの作品もインパクトがあり素晴らしかった。
その中で最も強烈に印象に残っているのが、メトロポリタン美術館に所蔵されている「女とオウム」であった。
本作品はクールベの裸婦画の代表作とされている。
この作品を目にしたとき、あっ、と思わず口から言葉が漏れた。
画面いっぱいに一人の裸婦が横たわっているのだが、それが凄まじき迫力なのである。
裸婦は、暗いテントの中で一糸まとわず仰向けになってオウムと戯れている。
その肌は真っ白で輝いてはいるものの、体はふくよかでしまりがなく、寝姿もだらしがなく乱れている。
決して「美しい画」とは言えない。
それなのに裸婦はとても生き生きとして、目が離せないほど魅力的で魅惑的なのである。
キャンバスから今にもそのまま転がり落ちてきそうな、そんな気さえするほどの生命力に溢れているのだ。
絵の中の裸婦が脈打っているのがわかる、その鼓動が聞こえる、血流が駆け巡っているのがわかる。
絵が”生きている”のだ。
画面を見続けていると、こちらの生気が吸い取られていくような錯覚にさえ陥った。
心の臓が突き抜けるほどの衝撃だった。
それまでに数多の裸婦画を鑑賞してきたが、女性の裸体の美しさに感動することはあっても、このような感覚に見舞われたことはなかった。
ギュスターヴ・クールベは目に見える現実を描くことが真の芸術だと信じ、「生きた絵画を制作すること」を徹底した画家であった。
そしてその信念を58歳で生涯を終えるそのときまで曲げずに、己の内に渦巻くエネルギーをそのままキャンバスに注ぎ込んで本物以上に本物を描いてきた。
それらは「絵画」という枠を越えて、永遠の「生命」となった。
恐るべき画家である。
神域に踏み込んだ芸術家と言えよう。

*「女とオウム」 ギュスターヴ・クールベ 1866年作 メトロポリタン美術館所蔵
サロン発表時の評価は最悪だった。「見苦しいポーズ」や「乱れた髪」などと痛烈な批判を受けた。そしてクールベ自身は「審美眼の欠如」した画家とまで言われた。

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