ART POWER
Part.8
パラスとケンタウロス サンドロ・ボッティチェリ
サンドロ・ボッティチェリは15~6世紀のルネサンス期のイタリアで活躍した画家である。
彼の描いた作品「春」「ヴィーナス誕生」は世界中に知られている名画だ。
それらの2作品とともにイタリアを代表するウフィツィ美術館の「ボッティチェリの間」に飾られているのが「パラスとケンタウロス」である。
2014年、この作品を実際に目にする機会に恵まれた。
東京都立美術館で開催された「ウフィツィ美術館展」に来日したのである。
「パラスとケンタウロス」はこの展覧会の目玉作品であり、会場半ば辺りに展示されていた。
サイズが207x148もある相当な大きさの画だった。
その画に描かれているのは、タイトル通り「パラス」と「ケンタウロス」。
双方ともギリシャ神話に登場する神々である。
「パラス」は「パラス=アテナ」の略称であり、ミネルヴァの異名でもある。
オリンポスの主神ゼウスの頭部より、兜と甲冑を纏って誕生した知恵と戦いの女神だ。
画に描かれているパラスは、自身の身丈よりも長く大きな斧を携えて、暴れ者の半人半馬ケンタウロスの頭髪を掴んで怯えさせている。
パラスは、途方もなく美しかった。
濃厚な花の蜜に吸い寄せられる蜂のように画の前に足が奪われていった。
そしてその圧倒的存在に言葉もなく立ち尽くし、頭のてっぺんからつま先までパラス一色に染まった。
全身は痺れ、跪いて平伏したくなった。
いや、心は既にそうしていた。
「神」が目の前に在るのだ。
古来より人類が敬い崇めていた、目に見えず、触れてはならぬ神聖な畏怖すべき大いなる存在が、だ。
ボッティチェリはまさしく姿形がわからない、理解できない存在を形にして表したのである。
優れた仏師が木の中に仏を見て掘り出したように、彼は白いキャンバスの中に女神を見い出し筆を走らせたのだ。
今、なお、この絵を思い浮かべるとき、自然心の中が畏縮する。
500年のときを越えて世界中を畏怖させる凄まじき芸術作品である。


*「パラスとケンタウロス」 サンドロ・ボッティチェリ 1480-1485年頃作 ウフィツィ美術館所蔵
当時のメディチ家の当主であったロレンツィオ・イル・マニフィコの又従弟であるロレンツィオ・ディ・ピエルフランチェスコのために描かれたと考えられている。1980年に国立西洋美術館に初来日。


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