ART POWER Part.6 |
オフィーリア ジョン・エヴァレット・ミレイ | |
「オフィーリア」は英国の作家シェイクスピアの作品「ハムレット」に登場するヒロインである。 「ハムレット」は言わずと知れた世界中で読まれている作品だ。 自分の父親を殺されたハムレットが、父親を殺害した人物に復讐しようとしたために起こった悲劇の物語である。 「オフィーリア」はハムレットの恋人であった。 ハムレットは彼女の父親を自分の父親を殺した人物と勘違いをして殺してしまう。 彼女は愛する男性、ハムレットに己の両親を殺害され、絶望をかかえながら狂気のうちに死に至る。 芸術のインスピレーションをそそるのか、過去多くの画家がその場面の「オフィーリア」を描いた。 最も知られているのは、このジョン・エバレット・ミレイの作品であろう。 本作品を初めて観たのは1998年に東京都美術館で開催された「テート・ギャラリー展」においてであった。 圧巻であった。あまりの美しさにただただ茫然となった。画の前で立ち尽くした。 己の語彙力不足と文章力の稚拙さがもどかしい。 It is beyond description. その美言語に絶す。 水面に浮かんだオフィーリアの姿態はもちろんのこと彼女を覆うかのようにして生い茂る植物群の美しさと言ったらどうだ。 画面から香しい花々の香りが清廉な水とともに流れ出てきそうである。 我を忘れて画に見入った。自我を失くして甘美なる絵の世界に陶酔した。 完全に絵に取り込まれた。時間が止まった。 この作品を観たときには既に数多の名画を鑑賞して幾年月が流れていたが、それでも改めて「芸術」とは何かということを改めて思い知らされた。 他者の持つあらゆる感情を払拭し、屈服させて、心の中に君臨することが真の芸術なのだということを。 この後、三度本作品を目にする機会に恵まれた。 その度事に自我を喪失させられた。 名画はやはり永遠である。 その花かずらを垂れさがった枝にかけようと 柳の木によじのぼれば、枝はつれなくも折れて、 花環もろとも川の中にどーっと落ち、 もすそは大きく広がりました。 それで暫くは人魚のように水の上に浮いてその間、 自分の溺れるのも知らぬげに、 水に住み水の性とあっているかのように、 しきりと端歌を口ずさんでいましたとやら。 でも、そのうちに、着物は水を飲んで重くなり、 可哀そうに、美しいしらべの歌の声が止んだと思うと、 あの子も川底に沈んでしまい、無残な死を遂げました。 ――シェイクスピア「ハムレット」より。 *「オフィーリア」 ジョン・エバレット・ミレイ 1852年作 テート・ギャラリー所蔵 ジョン・エバレット・ミレイの代表作。発表当時の評価は芳しくなかった。モデルは「その5」で紹介しているエリザベス・シダル。 |