ART POWER
Part.9
真夏 アルバート・ムーア
19世紀英国において、ひたすら、ただひたすら、”美”を追求した芸術運動が展開された。
その活動を行った芸術家たちを総じて「唯美主義」と呼び、彼らは「英国美術の黄金時代」を築きあげた。
アルバート・ムーアはその「唯美主義」画家の一人である。
「真夏(Midsummer)」は、彼の代表作品だ。
本作品は画集で見て知ってはいた。
実物を見たのは2014年のことだった。
三菱一号館美術館で開催された「ザ・ビューティフル展」に来日したのである。
本作品はこの展覧会のラストに展示されていた。
展示されている室内に入った瞬間、太陽を連想させる鮮やかな橙色の衣が目の中に飛び込んできた。
画全体が、まるで沈みゆく太陽そのものだった。
全身が暮れゆく陽の光の色に染まった気がした。
しかし画面はいたって静謐であった。
中央に坐して眠る女性の表情の穏やかなこと穏やかなこと。
どんなに栄華を誇っても終わりのときはやって来る。
時世を席捲した唯美主義は新たに派生した美術団体に押しやられていった。
「真夏」に眠る女性―。
それは唯美主義の終焉「輝かしい落日」の象徴であると語られた。
時代を黄金色に染め上げた芸術家たちの終幕にふさわしい作品である。
己の人生の幕引きもかくありたいものだ。
己の全ての力を出し尽くし、潔く、かつ光輝きながら穏やかに眠りにつきたい。


*「真夏」 アルバート・ジョゼフ・ムーア 1887年作 ラッセル=コート美術館所蔵
画面で眠る女性の椅子に掛けられている花はマリーゴールド。花言葉は「悲嘆」。唯美主義の終焉の嘆きを表現していると考察されている。

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