「シュリンクス」

アーサー・ハッカー

1892年制作 マンチェスター市立美術館所蔵

 

 

 

シュリンクスとは、ギリシャ神話に登場するアルカディアの野に住む水の妖精の名前です。

彼女は、下半身は獣で山羊のような角を持った四足獣の牧神パンに思いを寄せられます。

ある日、シュリンクスは、パンに見つけられて後を追いかけられ、ついには逃れようのない川岸まで追い詰められてしまいます。

ですが、パンの手が彼女に届きそうになったその瞬間、シュリンクスはなんと葦の姿に変わってしまいました。

川の流れのニンフである姉妹たちはシュリンクスの祈りを聞き届け、彼女を葦の姿に変えて、パンの暴行から救ったのです。

アーサー・ハッカーは、その場面を画面に描き出しました。

一糸纏わぬ姿で葦の中に屹立しているその彼女の姿は、ヴィーナスのごとき美しさです。

牧神パンが我を忘れて追いかけたのもうなずけます。

滑らかで柔和そうな肌が得も言われぬ甘美さを醸し出しているではありませんか。

女体のフォルムも完璧です。

本作品がロイヤル・アカデミーで展示されたとき、こう評されました。

「イギリス美術において、稀な線と配色のえもいわれぬ美しさ」と。

 

パンがついにシュリンクスをつかまえたと思ったとき、彼はニンフの身体の代わりにひとつかみの沼の葦を持っていた。

 


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